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赤髪の少女【13】
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梓月は涙を伝う澪の頬を親指で拭いながら「澪は歩澄様のことが好きなんだね」と言った。
「好き……みたい。でも、もう遅い……」
「遅い?」
「私みたいな女は相手にしてもらえないし……可愛くもないし」
そう言って両手の甲で涙を拭う澪。
(男のことでこんなに泣く姫が可愛くないわけないだろ……)
梓月は軽く息をついて「澪は可愛いよ」と答えた。
「……ありがとう。そう言ってくれるのは梓月くんだけだよ」
そう言って澪は少しだけ微笑んだ。
(そう思うのなら俺にすればいいのに……)
「城を追い出されたら俺のところにおいでよ」
「……え?」
「家を用意してあげる。俺と一緒に暮らせばいい」
「ふふ。なんだか夫婦みたいだね」
澪は、元気付けるための梓月の冗談だと思い、軽く笑う。しかし梓月は真剣な顔をして「うん。澪と夫婦になりたい」そう言ってそのまま澪を抱き締めた。
「え? ちょっ……」
わけがわからず、腕に力を込められた。梓月の思っていた以上に厚い胸板に、澪は頬を押し付ける形になった。
「好きだよ。俺、澪のことが好きなんだ」
梓月の低い声が澪の耳元で響くと、上を向かされ、梓月が顔を寄せた。
「まっ、待って。梓月くん、ごめっ、私……やっぱり歩澄様じゃないと……」
澪はそう言ってするりと梓月の腕の中から抜け出した。顔を紅潮させ、二度も容易に殿方の腕に収められた自分を恥じたのだった。
「じゃあ、私なんてとか言ってないでちゃんと歩澄様に言わなきゃじゃないの? 俺は言ったよ? 澪が歩澄様のことを好きだって知ってても。だって好きになっちゃったからね」
梓月の言葉に、また熱い何かが澪の心に込み上げてきた。
「で、でも、今更……」
「澪の探していた蒼くんは歩澄様だよ」
梓月がそう言ったことで澪の思考は停止した。
「……え?」
「歩澄様の本名は神室蒼。歩澄は役名だよ。わかる? 先代の統主様も歩澄様だってこと」
「え? え? えー!!」
すっかり涙など止まり、驚きを隠せず口をあんぐりとさせている澪。あんなにも必死に探していた蒼は、すぐ目の前にいたのだ。
毎夜共に過ごし、それでも気付かなかった。
口をパクパクとさせている澪に、梓月はぶはっとおかしそうに吹き出し、「恐らく気付いてないのは澪だけだよ。いつまでも気付いてもらえないから、拗ねてるんじゃないの? 歩澄様」と言った。
「そ、そ、そ、そ、そんな……」
「これで言えるね?」
梓月が頬杖をついて困ったように笑うと、澪は下唇をぐっと噛んで何度も頷き、「梓月くんありがとう!」そう言って部屋を飛び出していった。
「あーあ。俺、お人好し。あの顔が俺だけに向けられればいいのに」
梓月はそう一人呟きながら、複雑な表情を浮かべた。
「好き……みたい。でも、もう遅い……」
「遅い?」
「私みたいな女は相手にしてもらえないし……可愛くもないし」
そう言って両手の甲で涙を拭う澪。
(男のことでこんなに泣く姫が可愛くないわけないだろ……)
梓月は軽く息をついて「澪は可愛いよ」と答えた。
「……ありがとう。そう言ってくれるのは梓月くんだけだよ」
そう言って澪は少しだけ微笑んだ。
(そう思うのなら俺にすればいいのに……)
「城を追い出されたら俺のところにおいでよ」
「……え?」
「家を用意してあげる。俺と一緒に暮らせばいい」
「ふふ。なんだか夫婦みたいだね」
澪は、元気付けるための梓月の冗談だと思い、軽く笑う。しかし梓月は真剣な顔をして「うん。澪と夫婦になりたい」そう言ってそのまま澪を抱き締めた。
「え? ちょっ……」
わけがわからず、腕に力を込められた。梓月の思っていた以上に厚い胸板に、澪は頬を押し付ける形になった。
「好きだよ。俺、澪のことが好きなんだ」
梓月の低い声が澪の耳元で響くと、上を向かされ、梓月が顔を寄せた。
「まっ、待って。梓月くん、ごめっ、私……やっぱり歩澄様じゃないと……」
澪はそう言ってするりと梓月の腕の中から抜け出した。顔を紅潮させ、二度も容易に殿方の腕に収められた自分を恥じたのだった。
「じゃあ、私なんてとか言ってないでちゃんと歩澄様に言わなきゃじゃないの? 俺は言ったよ? 澪が歩澄様のことを好きだって知ってても。だって好きになっちゃったからね」
梓月の言葉に、また熱い何かが澪の心に込み上げてきた。
「で、でも、今更……」
「澪の探していた蒼くんは歩澄様だよ」
梓月がそう言ったことで澪の思考は停止した。
「……え?」
「歩澄様の本名は神室蒼。歩澄は役名だよ。わかる? 先代の統主様も歩澄様だってこと」
「え? え? えー!!」
すっかり涙など止まり、驚きを隠せず口をあんぐりとさせている澪。あんなにも必死に探していた蒼は、すぐ目の前にいたのだ。
毎夜共に過ごし、それでも気付かなかった。
口をパクパクとさせている澪に、梓月はぶはっとおかしそうに吹き出し、「恐らく気付いてないのは澪だけだよ。いつまでも気付いてもらえないから、拗ねてるんじゃないの? 歩澄様」と言った。
「そ、そ、そ、そ、そんな……」
「これで言えるね?」
梓月が頬杖をついて困ったように笑うと、澪は下唇をぐっと噛んで何度も頷き、「梓月くんありがとう!」そう言って部屋を飛び出していった。
「あーあ。俺、お人好し。あの顔が俺だけに向けられればいいのに」
梓月はそう一人呟きながら、複雑な表情を浮かべた。
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