【完結】美人過ぎる〇〇はワンコ彼氏に溺愛される

雪村こはる

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婚姻届

【57】

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「突然すみません」

「いえ……。主人の同級生の方なんですね」

 主人なんて言い方、初めてした。入籍当日はこんな日がくるかもって浮かれていたけど、初めて使うのがこんな時なんて。
 まだまだ結婚したことにも慣れないのに、女の子が訪ねて来たことに動揺している私。
 私は、あまねくんの妻なんだから。堂々としいればいいの。そう自分に言い聞かせ、精一杯笑顔を作る。

 目の前の可愛い女性を見て、ちゃんと化粧をして着替えておいてよかったと思った。

「主人って……周、……守屋くん結婚したんですか? ……あなたと?」

「ええ。聞いてませんか?」

 今、あまねって言った? いや、くん付けするつもりだったかもしれないし。
 つい、律くんのような一線を引いた物言いになる。

「あ、はい。私、転勤で海外にいたものですから……昨日戻ってきたばかりで。急に海外転勤が決まって本を返す暇もなく向こうに行ってしまったので、こっちに帰って来たら、すぐに返そうって思ってたんです」

「そうだったんですか……」

 よかった。定期的に会っていたわけではなさそうだ。

「あの、守屋くんは?」

「今日はまだ帰宅してません」

「そうでしたか……。では、渡しておいてもらってもいいですか?」

「はい」

 返事をすると、彼女は肩にかけていたベージュのバッグを手前に持ってきて、中に手を入れた。
 ふと目に入ったのは、持ち手の取り付け部分にぶら下がったくまのキーホルダー。全身がメタリック調で、手足が動くタイプのものだ。

「……可愛いキーホルダー」

 思わずぽろっと呟いてしまった。

「あ、これ。彼がくれたんです。動物園に行った時に」

 彼女は、ほんのり顔を赤らめて微笑んだ。なんだ……彼氏いるんじゃん。
 ほっとして、ようやく私も笑みが溢れた。

「優しい彼氏さんですね」

「はい。……本当に」

 彼女は、ふっと笑ってから本を取り出した。厚さ2cm程の文庫本だ。

 受け取った本の表紙には〔データ分析から学ぶマクロ経済学〕と書かれている。

 う……難しそう。そうか、あまねくんは税理士さんだから、経済学部出身なんだ……。
 私、そんなことも知らない。

 少し気落ちし、彼女を見る。一瞬表情のなかった彼女は、にっこり微笑み「お願いします」と言った。

「……はい」

 やっぱり何か、嫌な感じ。別に何をされたわけでもない。それでも何か、嫌なんだ。
 彼女が帰った後、本を見つめた。コーンスープの匂いがする家の中で、私は深い溜め息をついた。
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