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婚姻届
【50】
しおりを挟む「俺のまどかさんが独り占めできなくなってしまうかもしれない……」
先程までは、呆れながらも笑えてくるようなあまねくんの言葉。だけど、それを本気で阻止しようなんて思っていたら……。
結果を知るのが恐ろしくなった。どうしよう……。妊娠してたらどうしよう……。
「まどかさーん? どう? 結果出たー?」
私はこんなにもぐるぐると考えているのに、呑気なあまねくんの声がする。
「……まだ見てない」
「もう出る?」
「多分……。でも、怖くて見れない」
「何で?」
「だって……」
「あ、まどかさん不安なんでしょ?」
からっとした彼の声。不安に思っていることを悟られて、顔を上げる。
あまねくん……。
「たしかに子供は溺愛するかもしれないけど、1番はずっとまどかさんだよ」
明るい声が聞こえて気が抜ける。
そういうことじゃないんだけどな……。
ただ、私を安心させるには十分な言葉で、すっと心が晴れた気がした。
そっとトイレのドアを開ける。
「……一緒に見てくれる?」
「もちろん」
私の好きな笑顔でそう答えるあまねくん。この人が、そんな酷いことを考えるわけがない。
大丈夫……。
覚悟を決めて、彼とせーので結果を見た。
「これって……」
縦に1本線が引かれている。
「……陽性?」
「だね……」
もう一度説明書を読み返してみる。やはり縦線は陽性反応らしい。
「じゃあ、妊娠してるってことだよね?」
「そうだね……。でも、ちゃんと病院行って調べてもらわないとなんとも……」
「あー……籍入れといてよかったぁ……」
あまねくんは、その場にしゃがみ込み、膝の上で両手を伸ばす。顔を伏せて、床に向かって深い溜め息をついた。
「ん? 籍?」
「今日、急いでよかったよ。じゃなきゃ俺、お義父さんにぶん殴られるところだった」
え? そこ?
心から安堵した表情を浮かべている彼を見て、またこちらは唖然とすることになる。
「報告するのはとりあえず病院行ってからでいいよね? 土曜日も午前中ならやってるでしょ? 俺、一緒に行った方がいいもんね?」
「え? あ、うん……」
「どっちかなぁ……。前に男の子でも女の子でもいいって言ったけどさ……やっぱり俺、最初はまどかさんに似た女の子がいいな」
そう言って、顔を上げ、私を見上げる。私の足元で、白い歯を見せて嬉しそうな彼。
「うん……。私も、女の子がいいな」
そう言った瞬間、涙が溢れた。
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