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婚姻届

【49】

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 寝間着に着替えて、あまねくんを待つ。バタバタと音を立てて、騒がしくご帰宅の旦那様。

「まどかさんっ、買ってきた!」

「はやっ!!」

 スマホに表示された時刻を二度見する。そんなに近くに薬局あったっけ? 

「妻が妊娠したかもしれなくてって言ったら、店員さんが一緒に選んでくれたよ」

「つ、妻……」

 先に使われてしまった。他人への配偶者三人称。
 そんなことよりも、彼の手に握られているのは、紛れもなく妊娠検査薬。ドラマとかで見るあれだよね!? まさか自分が使う日がくるなんて思ってもみなかった……しかも、入籍当日に。

「開けるよ。いい?」

「う、うん……」

 なぜかあまねくんの方が冷静に事を進める。こういうのって、夫がいない時にこっそり検査するもんじゃないのかな……。

「はい、説明書読みます。まず、キャップを外します」

 本体を手渡され、あまねくんは説明書を開いて朗読する。私は、その手順に従ってキャップを外した。

「採尿します。判定部にはかけないよう……って、難しくない? コップに採って浸ける方法もあるってよ。……俺が採ってあげようか?」

 キラキラした笑顔で何を言っているんでしょうか、この人は。

「結構です!」

「えぇ!? 何で? 自分で採るの大変でしょ? それか、排尿しててくれれば5秒間俺が当て続けて……」

「もういいから貸して」

 あまねくんから説明書を取り上げて、トイレに駆け込む。

 律くん、やっぱりあまねくん変だったよ……。変態だった。
 カフェでの律くんの言葉を思い出し、愛され過ぎるのも少し考えものかもしれないと溜め息をつく。

「まどかさーん? 大丈夫? 大変だったら手伝うからねー」

 トイレのドアをコンコン叩きながら、あまねくんの声が聞こえる。

「大丈夫だから! 向こうで待ってて!」

 あまねくんがすぐ傍にいるのに、用を足すなんてできないよ。音が聞こえても嫌だし……。

「はーい……」

 あまねくんの気配が去ったところで、説明書を読みながら、行った。こんなこと、あまねくんにさせられないし……というか、絶対させないし。
 彼の言葉を思い出して、赤面する。
 仕事をしていた時には、他人の排泄物なんて何ともなかったけれど、あまねくんが私の排泄物を取り扱うのは、きっとそういうのとは違う気がする。

 無事に採尿を終えて、キャップを閉めた。
 ここから更に3分程待つのね。

 ……緊張してきた。1人で確認するのは怖い気が……でも、もし本当に妊娠してたらあまねくんはどんな反応をするだろうか。

 せっかく結婚したのに、2人きりの新婚生活を過ごせないとがっかりするだろうか。そしたら……赤ちゃんどうなっちゃうかな。

 堕胎しろって言うかな……。

「あなたと一緒にいるためなら、多少の犠牲も厭わない」

 こんな時に律くんの言葉を思い出す。さすがにないよね……だって、あまねくんの子供だよ? そんなこと言わないよね? 

 だけど、早急に結果を知りたがって薬局に向かったあまねくんを思い出す。そんなに急いで結果を知って、どうするつもりだろうかなんて考える。
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