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婚姻届
【46】
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婚姻届を提出した帰りの車中。
「ねぇ、全然実感ないんだけど」
「俺も。でも、無事に受理されましたって言ってたよ?」
「じゃあ、私はあまねくんのお嫁さんになったってこと?」
「そうだよ」
「……」
2人で黙る。あっさりし過ぎている。
結婚ってこうなんだっけ!?
こういうもんなんだっけ!?
もっとこう、婚姻届を掲げて「結婚しましたー!」みたいな感じで写真を撮って、皆さんに報告してって……。
なんか、想像してたのと違う。
「結婚した実感っていつ湧いてくるのかな?」
「んー、守屋さんって呼ばれた時じゃない?」
「はっ……! そうか……苗字が変わるのか……。とうとう……」
今、胸にじんと響く苗字が変わるという現実。ようやくこの珍しい苗字から解放される。
子供の頃は、散々「いち」と呼ばれ、読めないとぐずぐす言われて来た。初めて会う人には、必ず「珍しい苗字ですね」と言われ、対応するのが面倒だった。
それもこれでおさらばだ。私は、守屋という苗字を手に入れた。
RPGで言ったら、結構レベル上がるやつ。
「じゃあ、古河先生のところに受診に行ったら、守屋さんって呼ばれるんだね?」
「そうだね。診察券、変えてもらわなきゃね」
「うん。美容院予約する時は、守屋ですけどってかけるの?」
「そうだよ」
「次の仕事の面接は、守屋まどかで受けるの?」
「そうだってば」
あまねくんは、ハンドルを握ったままクスクスと笑う。
「よろしくね、俺の奥さん」
信号待ちで停車すると、こちらを向いてふんわりと微笑む。天使のような美しいこの人が、私の旦那さんになった。
先程まで全く実感がなかったのに、急に込み上げる気恥ずかしさ。
これから先、あまねくんの仕事関係の人なんかに会ったら、「いつも主人がお世話になっておりますー」とか言うのかな?
言うのか!
そうか……うちの主人か。私は、守屋まどかで守屋周の妻。
妻! つまー!!
両手で自分の頬を覆って、「奥さんだ……」と呟いた。
「ん? 大丈夫? まどかさん」
結婚する前までは、あんなにおおはしゃぎだったあまねくんが、今ではとても冷静だ。
その代わりに、私の方がひどく興奮していることが自分でもよくわかる。
「だ、だ、大丈夫……」
「そう? これから忙しいよ。順番変わっちゃったけどさ、指輪も買わなきゃいけないし、結婚式の準備もするでしょ。あ、その前に引っ越し」
「……やることいっぱい」
「うん。お仕事は色々落ち着いてからだね」
「……そうする」
「俺は、もともとまどかさんが働いてても働かなくてもいいと思ってたから、ゆっくり準備して環境に慣れたところで仕事するなら探せばいいと思うよ」
「うん。ありがとうね」
「うん。俺こそ、ありがとう」
「ん?」
「傍にいてくれて。まどかさんと結婚できたの幸せ」
ほんのり顔を赤らめて、そう言って満面の笑みを見せてくれた。
そんなの、私だって幸せに決まってるじゃない。
「私もー!」
なぜか涙がぼろぼろと溢れて、あまねくんの左腕を掴む。
「ねぇ、全然実感ないんだけど」
「俺も。でも、無事に受理されましたって言ってたよ?」
「じゃあ、私はあまねくんのお嫁さんになったってこと?」
「そうだよ」
「……」
2人で黙る。あっさりし過ぎている。
結婚ってこうなんだっけ!?
こういうもんなんだっけ!?
もっとこう、婚姻届を掲げて「結婚しましたー!」みたいな感じで写真を撮って、皆さんに報告してって……。
なんか、想像してたのと違う。
「結婚した実感っていつ湧いてくるのかな?」
「んー、守屋さんって呼ばれた時じゃない?」
「はっ……! そうか……苗字が変わるのか……。とうとう……」
今、胸にじんと響く苗字が変わるという現実。ようやくこの珍しい苗字から解放される。
子供の頃は、散々「いち」と呼ばれ、読めないとぐずぐす言われて来た。初めて会う人には、必ず「珍しい苗字ですね」と言われ、対応するのが面倒だった。
それもこれでおさらばだ。私は、守屋という苗字を手に入れた。
RPGで言ったら、結構レベル上がるやつ。
「じゃあ、古河先生のところに受診に行ったら、守屋さんって呼ばれるんだね?」
「そうだね。診察券、変えてもらわなきゃね」
「うん。美容院予約する時は、守屋ですけどってかけるの?」
「そうだよ」
「次の仕事の面接は、守屋まどかで受けるの?」
「そうだってば」
あまねくんは、ハンドルを握ったままクスクスと笑う。
「よろしくね、俺の奥さん」
信号待ちで停車すると、こちらを向いてふんわりと微笑む。天使のような美しいこの人が、私の旦那さんになった。
先程まで全く実感がなかったのに、急に込み上げる気恥ずかしさ。
これから先、あまねくんの仕事関係の人なんかに会ったら、「いつも主人がお世話になっておりますー」とか言うのかな?
言うのか!
そうか……うちの主人か。私は、守屋まどかで守屋周の妻。
妻! つまー!!
両手で自分の頬を覆って、「奥さんだ……」と呟いた。
「ん? 大丈夫? まどかさん」
結婚する前までは、あんなにおおはしゃぎだったあまねくんが、今ではとても冷静だ。
その代わりに、私の方がひどく興奮していることが自分でもよくわかる。
「だ、だ、大丈夫……」
「そう? これから忙しいよ。順番変わっちゃったけどさ、指輪も買わなきゃいけないし、結婚式の準備もするでしょ。あ、その前に引っ越し」
「……やることいっぱい」
「うん。お仕事は色々落ち着いてからだね」
「……そうする」
「俺は、もともとまどかさんが働いてても働かなくてもいいと思ってたから、ゆっくり準備して環境に慣れたところで仕事するなら探せばいいと思うよ」
「うん。ありがとうね」
「うん。俺こそ、ありがとう」
「ん?」
「傍にいてくれて。まどかさんと結婚できたの幸せ」
ほんのり顔を赤らめて、そう言って満面の笑みを見せてくれた。
そんなの、私だって幸せに決まってるじゃない。
「私もー!」
なぜか涙がぼろぼろと溢れて、あまねくんの左腕を掴む。
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