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婚姻届
【44】
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寝支度を整え、私の部屋へと上がる。セミダブルのベッドに入り込み、あまねくんは仰向けに寝転ぶ。左手で髪をかきあげながら、「緊張したなぁ」なんてクスクス笑っている。
私はうつ伏せで上半身を起こすと、あまねくんの頭をそっと撫で「お疲れ様でした」と呟いた。
「明日は、俺の実家に行こう」
「うん。奏ちゃんもまだいるんだよね?」
「そう。明日までだってさ」
「そっか……。じゃあ、また東京戻っちゃうんだね。あ! それより聞いた? 古河先生のこと」
「あー、うん。朋樹の方からね」
「あまねくん、先生と遊んだことも言ってくれなかったじゃん」
「え? そうだっけ? あの受診の後すぐたったんだよ。あー……、まどかさんが実家に帰ってる時だ」
そう言われてドキリとする。それは、私が雅臣の日記を読んで泣いていた頃に当たる。
もしかしたら、言われていたけど日記に集中しすぎて覚えてないのか……いやいや、いくら臣くんの日記にとらわれていたからといって、あまねくんの話が頭に入ってこないなんてことはないはず。
やはりそんな話しは聞いてないと記憶を辿って思い直す。
4日目には、あまねくんと待ち合わせをしていたのだから、おそらくそれまでの3日間のどこかだろう。
「外で会ってもよかったんだけど、実家の場所まだ覚えてるって言うから、直接来てもらったんだ」
「そうだったんだね。それにしてもよく奏ちゃんが素直に先生と食事に行ったね?」
「うん。俺が奏に行ってきたらって言ったから」
「え? あまねくんが? ふーん。先生と再会したばっかりなのに奏ちゃん紹介したんだ」
「うん」
あまねくんは、奏ちゃん思いだからいくら子供の頃の友達とはいえ、再会して間もない相手に自分の妹を紹介するなんて驚きだった。
私の主治医でもあるし、それで少しは信用できるとでも思ったのだろうか。
そんなふうに考えてると、あまねくんが「朋樹がね、まどかさんのこと綺麗な彼女さんがいていいねって言ったんだ」と付け加えた。
「え? 私のこと?」
「うん。僕もあんな綺麗な彼女欲しいなとか言うからさ。受診の時なんて2人きりだし、まどかさんのこと口説いたりしたら嫌じゃん」
おや?
「それはないと思うけど……」
「わかんないじゃん。密室だよ? 診察でもまどかさんに触るとか嫌だし」
おやおや……。
「彼女いないって言ってたから、彼女ができればそんな気も起こらないかもしれないしね」
「うーん……。古河先生は、そんな感じの人じゃないと思うけどな……」
「うん。俺もそう信じたいよ。だからまあ……奏に対する多少の生け贄感は否めないけど、結果よければ双方のためになるし。……ね?」
ねって……。これは、律くんが言ってた何かを犠牲にするのも厭わないとかそんなようなものかしら……。
おそらく満面の笑みを浮かべているであろうあまねくんの表情は、恐ろしくて見ることができなかった。
あんなに照れ臭そうにしていた奏ちゃんは、生け贄だった。古河先生がいい人でよかった。きっと彼なら奏ちゃんを幸せにしてくれるはずだ。
喫茶店で素直に2人を祝福した光景を思い出し、なんとなく複雑な気持ちになった。
おそらくそんな話を古河先生としたから、わざわざ彼が遊びに来たことを私に言わなかったのだろうと察した。
「で、でも奏ちゃん嬉しそうだったし、あまねくんが言ったように結果はよかったのかもしれないよね」
一応フォローを入れたが、彼からの返事はない。
「あまねくん?」
体を横にして彼を見れば、既に寝息を立てて眠っていた。
「あまねくん……」
あまねくんは、私のために奏ちゃんが犠牲になるのも何とも思わないのかな……なんて少し悲しい気持ちになる。
しかし、それでも彼のことを微塵も嫌いになれないのは、どこかでこんな彼すらも愛しいと思っているのかもしれない。
律くんが私も相当ヤバいなんて言っていたけれど、こういうことなのかなぁなんて、今になって彼の言葉を理解した気がした。
私はうつ伏せで上半身を起こすと、あまねくんの頭をそっと撫で「お疲れ様でした」と呟いた。
「明日は、俺の実家に行こう」
「うん。奏ちゃんもまだいるんだよね?」
「そう。明日までだってさ」
「そっか……。じゃあ、また東京戻っちゃうんだね。あ! それより聞いた? 古河先生のこと」
「あー、うん。朋樹の方からね」
「あまねくん、先生と遊んだことも言ってくれなかったじゃん」
「え? そうだっけ? あの受診の後すぐたったんだよ。あー……、まどかさんが実家に帰ってる時だ」
そう言われてドキリとする。それは、私が雅臣の日記を読んで泣いていた頃に当たる。
もしかしたら、言われていたけど日記に集中しすぎて覚えてないのか……いやいや、いくら臣くんの日記にとらわれていたからといって、あまねくんの話が頭に入ってこないなんてことはないはず。
やはりそんな話しは聞いてないと記憶を辿って思い直す。
4日目には、あまねくんと待ち合わせをしていたのだから、おそらくそれまでの3日間のどこかだろう。
「外で会ってもよかったんだけど、実家の場所まだ覚えてるって言うから、直接来てもらったんだ」
「そうだったんだね。それにしてもよく奏ちゃんが素直に先生と食事に行ったね?」
「うん。俺が奏に行ってきたらって言ったから」
「え? あまねくんが? ふーん。先生と再会したばっかりなのに奏ちゃん紹介したんだ」
「うん」
あまねくんは、奏ちゃん思いだからいくら子供の頃の友達とはいえ、再会して間もない相手に自分の妹を紹介するなんて驚きだった。
私の主治医でもあるし、それで少しは信用できるとでも思ったのだろうか。
そんなふうに考えてると、あまねくんが「朋樹がね、まどかさんのこと綺麗な彼女さんがいていいねって言ったんだ」と付け加えた。
「え? 私のこと?」
「うん。僕もあんな綺麗な彼女欲しいなとか言うからさ。受診の時なんて2人きりだし、まどかさんのこと口説いたりしたら嫌じゃん」
おや?
「それはないと思うけど……」
「わかんないじゃん。密室だよ? 診察でもまどかさんに触るとか嫌だし」
おやおや……。
「彼女いないって言ってたから、彼女ができればそんな気も起こらないかもしれないしね」
「うーん……。古河先生は、そんな感じの人じゃないと思うけどな……」
「うん。俺もそう信じたいよ。だからまあ……奏に対する多少の生け贄感は否めないけど、結果よければ双方のためになるし。……ね?」
ねって……。これは、律くんが言ってた何かを犠牲にするのも厭わないとかそんなようなものかしら……。
おそらく満面の笑みを浮かべているであろうあまねくんの表情は、恐ろしくて見ることができなかった。
あんなに照れ臭そうにしていた奏ちゃんは、生け贄だった。古河先生がいい人でよかった。きっと彼なら奏ちゃんを幸せにしてくれるはずだ。
喫茶店で素直に2人を祝福した光景を思い出し、なんとなく複雑な気持ちになった。
おそらくそんな話を古河先生としたから、わざわざ彼が遊びに来たことを私に言わなかったのだろうと察した。
「で、でも奏ちゃん嬉しそうだったし、あまねくんが言ったように結果はよかったのかもしれないよね」
一応フォローを入れたが、彼からの返事はない。
「あまねくん?」
体を横にして彼を見れば、既に寝息を立てて眠っていた。
「あまねくん……」
あまねくんは、私のために奏ちゃんが犠牲になるのも何とも思わないのかな……なんて少し悲しい気持ちになる。
しかし、それでも彼のことを微塵も嫌いになれないのは、どこかでこんな彼すらも愛しいと思っているのかもしれない。
律くんが私も相当ヤバいなんて言っていたけれど、こういうことなのかなぁなんて、今になって彼の言葉を理解した気がした。
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