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婚姻届
【30】
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「そんな顔しないで下さいよ。結城に婚約者がいたってわかったら、あなたが酷く傷付くだろうって。俺まですぐに離れて男性不振になったら可哀想だって言ったのも周なんだから」
「あまねくんが?」
「俺は、あくまでも結城とあなたの2人の問題なんだから、別れ話については放っておけって言ったんです。どんな別れ方をするにしろ、カップルが別れるなんて普通のことだし、そこに周が首を突っ込むことでもないでしょ。そもそも周の目的は写真だったわけだし」
「そうだけど……」
「それなのに、惚れてる自覚がないのか、まどかさんが傷付いてたら、傍にいてあげたいなんて言い出して。……何でさっさと写真を奪ってこないのか聞いたら、何て言ったと思います?」
律くんは、ふっと笑ってそう聞いた。
そんなの、写真をあまねくんに奪われてしまったと気付いたら、私が傷付くと思ったからじゃないのか。
大体そんな流れだったじゃないか。そうは思うが、「何て言ったの?」と質問に質問で返してしまった。
「写真を奪ったら、俺の役目が終わっちゃうからって言ったんですよ」
「え?」
「スマホからUSBに写真を移した時、あのUSBを持ち去ってくることだってできた。でもそれをしなかったのは、役目を終えたらあなたと会えなくなるからってこと」
「え? でも、あれってまだ出会って3回目くらいの……」
「周にとっては何回目かなんて関係なかったんですよ。あなたから誘われたクリスマスイブ、嬉しそうでしたね。……あなたが期待させるようなことをするから、周はその気になったんですよ?」
「期待させるようなって……」
「結城から、あなたを惚れさせて酷い振り方をしろと言われたみたいですね」
「う、うん。私も後からあまねくんに聞いたよ」
「結城からしたら、きっと嫌だったんでしょうね。あなたが周に惚れることも、周があなたに惚れることも。勝手な言い分だと思いますけど、結城はあなたを誰にも渡したくなかったんだと思います」
律くんは、残りわずかになったコーヒーに口をつけた。
雅臣の日記には、好きな人と幸せになってくれたら幸せと書かれていた。
私の幸せを願う前は、そこまで私のことを好きでいてくれたということなのだろうか。
それとも、一時は私だけが幸せになるのは許せないとでも思ったのだろうか。
「周があなたに惚れてしまう前に、結城は片をつけたかった。でも、既に遅かった。周はあなたを振り向かせるのに必死だった。他人の女を奪うような人間じゃなかったのにね」
「で、でも……それはあまねくんの優しさで……」
「優しさだよ。周はあなたにとても甘い。惚れてる弱み。でも、独占欲は結城よりも強いかもしれない」
「いや、まさか……」
「周があなたに夢中で、あなたを本気で守りたいと思ってるのは事実です。でも、あなたを傍においておくためなら、多少の犠牲も厭わないのも確か。結城が2度とあなたに近付けないように罪を暴いて、すぐにでも刑務所に入れようって言ったのは周だよ」
「え……?」
「保険の件でも脱税の件でも疑わしい点はいくつかあった。実際、あの事務所からは証拠品が出てきたし。ただ、結城の罪については定かじゃなかった。それでもマルサの知人を使って一旦勾留させたのも周。結城が捕まった後、あの写真はとりあえず保管しておこうって俺は言ったんです。いざという時に、何かの役に立つかもしれないからって。その時に実は花井が浮気相手ではなかったことを周には伝えた」
何となく、嫌な予感がした。あまねくんは、誰にでも優しくて紳士的な人。それは今の印象からも変わらない。
でも、あまねくんに限ってそんなことはしないはず。……しないでいてほしい。それが本音だった。
「キスしたのは事実だから、そんなの関係ない。もし、脱税に関与してなくても父親が黒なら、確実に婚約は破談だし家族からのしがらみがなくなったらまどかさんに近付くかもしれない。それは避けなきゃって、周はあの写真が浮気の証拠写真でないことを知っててわざと記者に売り付けた。あなたを傷付けたあの男から何もかも奪うため。それと、あなたを独占するため」
律くんは、ばつが悪そうに私の視線から目を逸らした。知らなくてもいいこともあるとはこのことだったのだと、私は今ようやく理解した。
「あまねくんが?」
「俺は、あくまでも結城とあなたの2人の問題なんだから、別れ話については放っておけって言ったんです。どんな別れ方をするにしろ、カップルが別れるなんて普通のことだし、そこに周が首を突っ込むことでもないでしょ。そもそも周の目的は写真だったわけだし」
「そうだけど……」
「それなのに、惚れてる自覚がないのか、まどかさんが傷付いてたら、傍にいてあげたいなんて言い出して。……何でさっさと写真を奪ってこないのか聞いたら、何て言ったと思います?」
律くんは、ふっと笑ってそう聞いた。
そんなの、写真をあまねくんに奪われてしまったと気付いたら、私が傷付くと思ったからじゃないのか。
大体そんな流れだったじゃないか。そうは思うが、「何て言ったの?」と質問に質問で返してしまった。
「写真を奪ったら、俺の役目が終わっちゃうからって言ったんですよ」
「え?」
「スマホからUSBに写真を移した時、あのUSBを持ち去ってくることだってできた。でもそれをしなかったのは、役目を終えたらあなたと会えなくなるからってこと」
「え? でも、あれってまだ出会って3回目くらいの……」
「周にとっては何回目かなんて関係なかったんですよ。あなたから誘われたクリスマスイブ、嬉しそうでしたね。……あなたが期待させるようなことをするから、周はその気になったんですよ?」
「期待させるようなって……」
「結城から、あなたを惚れさせて酷い振り方をしろと言われたみたいですね」
「う、うん。私も後からあまねくんに聞いたよ」
「結城からしたら、きっと嫌だったんでしょうね。あなたが周に惚れることも、周があなたに惚れることも。勝手な言い分だと思いますけど、結城はあなたを誰にも渡したくなかったんだと思います」
律くんは、残りわずかになったコーヒーに口をつけた。
雅臣の日記には、好きな人と幸せになってくれたら幸せと書かれていた。
私の幸せを願う前は、そこまで私のことを好きでいてくれたということなのだろうか。
それとも、一時は私だけが幸せになるのは許せないとでも思ったのだろうか。
「周があなたに惚れてしまう前に、結城は片をつけたかった。でも、既に遅かった。周はあなたを振り向かせるのに必死だった。他人の女を奪うような人間じゃなかったのにね」
「で、でも……それはあまねくんの優しさで……」
「優しさだよ。周はあなたにとても甘い。惚れてる弱み。でも、独占欲は結城よりも強いかもしれない」
「いや、まさか……」
「周があなたに夢中で、あなたを本気で守りたいと思ってるのは事実です。でも、あなたを傍においておくためなら、多少の犠牲も厭わないのも確か。結城が2度とあなたに近付けないように罪を暴いて、すぐにでも刑務所に入れようって言ったのは周だよ」
「え……?」
「保険の件でも脱税の件でも疑わしい点はいくつかあった。実際、あの事務所からは証拠品が出てきたし。ただ、結城の罪については定かじゃなかった。それでもマルサの知人を使って一旦勾留させたのも周。結城が捕まった後、あの写真はとりあえず保管しておこうって俺は言ったんです。いざという時に、何かの役に立つかもしれないからって。その時に実は花井が浮気相手ではなかったことを周には伝えた」
何となく、嫌な予感がした。あまねくんは、誰にでも優しくて紳士的な人。それは今の印象からも変わらない。
でも、あまねくんに限ってそんなことはしないはず。……しないでいてほしい。それが本音だった。
「キスしたのは事実だから、そんなの関係ない。もし、脱税に関与してなくても父親が黒なら、確実に婚約は破談だし家族からのしがらみがなくなったらまどかさんに近付くかもしれない。それは避けなきゃって、周はあの写真が浮気の証拠写真でないことを知っててわざと記者に売り付けた。あなたを傷付けたあの男から何もかも奪うため。それと、あなたを独占するため」
律くんは、ばつが悪そうに私の視線から目を逸らした。知らなくてもいいこともあるとはこのことだったのだと、私は今ようやく理解した。
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