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婚姻届
【13】
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あれから5日が経った。私とあまねくんも、徐々に落ち着きを取り戻し、普段の生活に戻っていった。
あまねくんにも勧められ、私は念のためあまねくんと一緒に古河先生の元に診察を受けに行った。
「一さん、どうしました? 先週診察しましたが、お薬減らして何か異常でもありましたか?」
「いえ、少し事件がありまして……」
古河医師には、雅臣とまゆの事件のことを明かした。警察官にPTSDの可能性があるから、症状があるなら受診を勧められたこと。症状は今のところないが、念のため来たことを伝えた。
「それは……。大変でしたね。また少し表情が曇っています。そんな光景を見たら、誰だってショックを受けます。暫く通いますか?」
「いえ……何もなければいいんです。ただ、突然発症するんじゃないかって思うとそれだけは怖くて……」
「ある日突然発症することももちろんあります。でも、今一さんがこうやって冷静に話せるのは、事件の時、近くに彼氏さんがいたからではないかと思います。前回、自律神経失調症になった時には、彼氏さんに会えなくて辛い思いをしていましたからね」
「あ……」
古河医師にそう言われ、あの状況下でトラウマにならなかったのは、ずっとあまねくんが抱きしめていてくれたからなのだと納得した。
この先も、あまねくんがいれば大丈夫。そう言ってもらえているようで安堵した。私にとっての1番の精神安定剤はあまねくんの存在そのものだから。
「よかった。ね?」
隣に座るあまねくんに声をかければ、彼はじっと古河医師の顔より少し下を見つめていた。
「この方が一さんの素敵な彼氏さんなんですね。確かに、この前の妹さんと少し雰囲気が似ています。妹さんには失礼なことを言ってしまいましたが」
古河医師は、気にしない素振りでそう言っているが、私は「どうかしたの?」とあまねくんに尋ねた。
「あ、いや……。あの、人違いだったら申し訳ないんですけど、小学校って第三小学校でした?」
唐突な質問に、私も古河医師も驚く。先生に至っては、目をパチパチとさせ「はい……」と消え入りそうな声で答えた。
「やっぱり! 朋樹だよな? 俺のこと覚えてる? 周! 守屋周!」
「え!? 周!? 本当に!?」
古河医師は、中腰になりじっとあまねくんの顔を見た後「周だ!」と叫んだ。
まさかの2人は知り合いだったようだ。
「お友達なの……?」
「うん。小学生の時、同じクラスで仲良かったんだよ。よく遊んだし、勉強もうちで一緒にやったりした」
「そうそう。でも、僕の父が開業したら学区が変わっちゃって、転校することになったんだよね」
「隣の学区だから暫くはお互いに行き来してたんだけど、中学入って部活やったり俺は合気道始めたりしたからそっから会わなくなっちゃってさ……。懐かしいな。顔見ても全然気付かなかったけど、名札みたら昔医者になるって言ってたし、本人かもって思って」
すっかり話が弾んでいる。こんな偶然あるんだ。古河医師は、私よりも若いだろうと思っていた。しかし、まさかあまねくんの同級生だったなんて。
世間は狭すぎる。
「この通り、僕は小児科向いてなくて精神科医だけどね。だから、父親のクリニックもあの代で終わりだよ。小学生の時には父親のクリニック継ぐって夢だったんだけどな」
「いやいや、医者になっただけ凄いって。精神科医似合ってるし。俺も、あの時には弁護士になるって言ってたけど、今は税理士なんだ」
「え!? そうなんだ! いや、周くんは優し過ぎるから、弁護士より税理士の方が合ってる気がするよ。ほら、悪者側の弁護頼まれたら大変そうじゃん」
2人で話す様子はすっかりお友達だ。それに、お互いに褒め合ったりして。もし自分がPTSDを発症したらなんてびくびくしながら訪れたが、こんな和やかなムードを見せられたら、そんな不安は消え去ってしまった。
あまねくんにも勧められ、私は念のためあまねくんと一緒に古河先生の元に診察を受けに行った。
「一さん、どうしました? 先週診察しましたが、お薬減らして何か異常でもありましたか?」
「いえ、少し事件がありまして……」
古河医師には、雅臣とまゆの事件のことを明かした。警察官にPTSDの可能性があるから、症状があるなら受診を勧められたこと。症状は今のところないが、念のため来たことを伝えた。
「それは……。大変でしたね。また少し表情が曇っています。そんな光景を見たら、誰だってショックを受けます。暫く通いますか?」
「いえ……何もなければいいんです。ただ、突然発症するんじゃないかって思うとそれだけは怖くて……」
「ある日突然発症することももちろんあります。でも、今一さんがこうやって冷静に話せるのは、事件の時、近くに彼氏さんがいたからではないかと思います。前回、自律神経失調症になった時には、彼氏さんに会えなくて辛い思いをしていましたからね」
「あ……」
古河医師にそう言われ、あの状況下でトラウマにならなかったのは、ずっとあまねくんが抱きしめていてくれたからなのだと納得した。
この先も、あまねくんがいれば大丈夫。そう言ってもらえているようで安堵した。私にとっての1番の精神安定剤はあまねくんの存在そのものだから。
「よかった。ね?」
隣に座るあまねくんに声をかければ、彼はじっと古河医師の顔より少し下を見つめていた。
「この方が一さんの素敵な彼氏さんなんですね。確かに、この前の妹さんと少し雰囲気が似ています。妹さんには失礼なことを言ってしまいましたが」
古河医師は、気にしない素振りでそう言っているが、私は「どうかしたの?」とあまねくんに尋ねた。
「あ、いや……。あの、人違いだったら申し訳ないんですけど、小学校って第三小学校でした?」
唐突な質問に、私も古河医師も驚く。先生に至っては、目をパチパチとさせ「はい……」と消え入りそうな声で答えた。
「やっぱり! 朋樹だよな? 俺のこと覚えてる? 周! 守屋周!」
「え!? 周!? 本当に!?」
古河医師は、中腰になりじっとあまねくんの顔を見た後「周だ!」と叫んだ。
まさかの2人は知り合いだったようだ。
「お友達なの……?」
「うん。小学生の時、同じクラスで仲良かったんだよ。よく遊んだし、勉強もうちで一緒にやったりした」
「そうそう。でも、僕の父が開業したら学区が変わっちゃって、転校することになったんだよね」
「隣の学区だから暫くはお互いに行き来してたんだけど、中学入って部活やったり俺は合気道始めたりしたからそっから会わなくなっちゃってさ……。懐かしいな。顔見ても全然気付かなかったけど、名札みたら昔医者になるって言ってたし、本人かもって思って」
すっかり話が弾んでいる。こんな偶然あるんだ。古河医師は、私よりも若いだろうと思っていた。しかし、まさかあまねくんの同級生だったなんて。
世間は狭すぎる。
「この通り、僕は小児科向いてなくて精神科医だけどね。だから、父親のクリニックもあの代で終わりだよ。小学生の時には父親のクリニック継ぐって夢だったんだけどな」
「いやいや、医者になっただけ凄いって。精神科医似合ってるし。俺も、あの時には弁護士になるって言ってたけど、今は税理士なんだ」
「え!? そうなんだ! いや、周くんは優し過ぎるから、弁護士より税理士の方が合ってる気がするよ。ほら、悪者側の弁護頼まれたら大変そうじゃん」
2人で話す様子はすっかりお友達だ。それに、お互いに褒め合ったりして。もし自分がPTSDを発症したらなんてびくびくしながら訪れたが、こんな和やかなムードを見せられたら、そんな不安は消え去ってしまった。
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