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婚姻届
【8】
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「いつこっちに帰って来たの? 俺に逢いにきてくれたのか?」
あまねくんと同じ車から降りてきたことだってわかっていそうなものなのに、雅臣はそんなおかしな質問をする。
私は違うと言って、彼の存在を否定したかった。しかし、刃物を持っている以上、殺されるリスクを考えたら下手なことも言えない。
それ以上に恐怖が増して、声なんて出ない。
雅臣の持つ刃物がキラリと光る。刃先が長さ20cm程もあるナイフだ。あんなナイフで一突きされたら血が止まらない程吹き出すだろう。
あんなに鋭い、大型のナイフは初めてみた。包丁とも果物ナイフとも形が違う。光沢のある刃先が揺れる度、光が屈折して時折眩しかった。
「結城さん、もうまどかさんとは別れてるんだから解放してあげてよ」
「……はあ? どの口が言ってんだよ。まどかが九州に行ったってことは、お前も振られてんだろ? まどかは俺に会いに来たんだ」
私が九州にいたということは信じているようだが、それによって彼の中で勝手なシナリオが出来上がってしまっているらしい。
どうしたらそんな考えに至るのかは理解できないが、この状況がまずいことだけは確かだ。
「まどかさんは、あなたのことなんてもう何とも思ってない」
「嘘だ! お前がまどかのことを唆したんだろ? まどか言ったよな? 俺と別れるまでは浮気になるからこの男とは付き合えないって」
意味がわからず暫く思考停止する。記憶を辿ると、雅臣はどうやらクリスマスイブの夜の出来事を言っているらしい。
キスをしようとしたあまねくんを、まだ雅臣と別れていないからと言って拒んだ。今になって思えば、あの一部始終を盗聴されていたのだ。
あれは、私の誠意であって何も雅臣のことが好きだったからではない。けれど、彼の中では都合よく変換されてしまっているようだ。
「言ってることおかしいだろ……。勾留されて頭おかしくなってんの?」
「おかしいこと言ってるのはお前の方だろ、守屋。お前にはもう邪魔はさせない。お前さえ死ねば、まどかはずっと俺のものだし、これ以上面倒事も起きない」
「俺を殺したってまどかさんはあんたのものにはならないよ」
あまねくんは言いながら、少しずつ雅臣から距離をとって私のもとへと近付いてくる。じりじりとほんの少しずつ。
「それならまどかも殺すしかないな」
「何でそうなるんだよ」
「手に入らないなら、誰のものにもならないように殺せばいいからだ。名案だろ?」
「どこが……」
「どっちから死にたい? 俺はどっちでもかまわないよ。ナイト気取りのイケメンくん、守れるもんなら守ってみろよ!」
声を張り上げ、眉を吊り上げた途端、雅臣はこちらに向かって突進してきた。
私の体は硬直したまま、動けない。
早く、早く、動け! 私の体、動け!
心の中で叫ぶが、全くいうことを聞いてくれない。
「まどかさん!」
あまねくんの声が聞こえ、咄嗟に腕を引かれた。体がぐんっと持っていかれて、彼の腕の中に包まれる。
その瞬間、「うっ……」っと低い呻き声が聞こえた。
あまねくんと同じ車から降りてきたことだってわかっていそうなものなのに、雅臣はそんなおかしな質問をする。
私は違うと言って、彼の存在を否定したかった。しかし、刃物を持っている以上、殺されるリスクを考えたら下手なことも言えない。
それ以上に恐怖が増して、声なんて出ない。
雅臣の持つ刃物がキラリと光る。刃先が長さ20cm程もあるナイフだ。あんなナイフで一突きされたら血が止まらない程吹き出すだろう。
あんなに鋭い、大型のナイフは初めてみた。包丁とも果物ナイフとも形が違う。光沢のある刃先が揺れる度、光が屈折して時折眩しかった。
「結城さん、もうまどかさんとは別れてるんだから解放してあげてよ」
「……はあ? どの口が言ってんだよ。まどかが九州に行ったってことは、お前も振られてんだろ? まどかは俺に会いに来たんだ」
私が九州にいたということは信じているようだが、それによって彼の中で勝手なシナリオが出来上がってしまっているらしい。
どうしたらそんな考えに至るのかは理解できないが、この状況がまずいことだけは確かだ。
「まどかさんは、あなたのことなんてもう何とも思ってない」
「嘘だ! お前がまどかのことを唆したんだろ? まどか言ったよな? 俺と別れるまでは浮気になるからこの男とは付き合えないって」
意味がわからず暫く思考停止する。記憶を辿ると、雅臣はどうやらクリスマスイブの夜の出来事を言っているらしい。
キスをしようとしたあまねくんを、まだ雅臣と別れていないからと言って拒んだ。今になって思えば、あの一部始終を盗聴されていたのだ。
あれは、私の誠意であって何も雅臣のことが好きだったからではない。けれど、彼の中では都合よく変換されてしまっているようだ。
「言ってることおかしいだろ……。勾留されて頭おかしくなってんの?」
「おかしいこと言ってるのはお前の方だろ、守屋。お前にはもう邪魔はさせない。お前さえ死ねば、まどかはずっと俺のものだし、これ以上面倒事も起きない」
「俺を殺したってまどかさんはあんたのものにはならないよ」
あまねくんは言いながら、少しずつ雅臣から距離をとって私のもとへと近付いてくる。じりじりとほんの少しずつ。
「それならまどかも殺すしかないな」
「何でそうなるんだよ」
「手に入らないなら、誰のものにもならないように殺せばいいからだ。名案だろ?」
「どこが……」
「どっちから死にたい? 俺はどっちでもかまわないよ。ナイト気取りのイケメンくん、守れるもんなら守ってみろよ!」
声を張り上げ、眉を吊り上げた途端、雅臣はこちらに向かって突進してきた。
私の体は硬直したまま、動けない。
早く、早く、動け! 私の体、動け!
心の中で叫ぶが、全くいうことを聞いてくれない。
「まどかさん!」
あまねくんの声が聞こえ、咄嗟に腕を引かれた。体がぐんっと持っていかれて、彼の腕の中に包まれる。
その瞬間、「うっ……」っと低い呻き声が聞こえた。
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