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婚姻届

【5】

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 暫く子供の話をしてから、ハンモックから降り、彼と変わった。
 緑が茂る木々達が、さわさわと爽やかな音を立てる。仄かに土の匂いがする。
 情景はとても涼しげではあるが、この木陰から一歩でもでれば、直射日光が襲う。

 夏はあまり好きじゃない。けれど、冬はもっと苦手。じっとりと汗ばんでいた体が、ハンモックに揺られて風にさらされたことで、いくらかスッキリしている。汗が引いた証拠だ。

 久しぶりのデートが猛暑の中だなんて、体に悪い。アスファルトを遠目から見れば、視界は歪み陽炎が見える。
 それなのに動物達はこんな中でも元気だ。

 ハンモックに横になるあまねくんも、綺麗な顔を上に向けて目を瞑る。穏やかなこの顔が好きだ。
 あどけない表情は、いつか見たホームビデオの時のまま。あんなに小さなあまねくんがこんなに大きく成長するのだから、人間の体は不思議だ。

「立ちっぱなし、辛くない?」

 そっと目を開けて彼がこちらを見る。

「うん。あまねくんの顔見てるの好きだから」

「ふふ。何それ。俺の顔なんて見ててもつまんないでしょ?」

「つまんなくないよ。肌綺麗だなぁ、睫毛長いなぁって思いながらいつも見てるよ」

「綺麗じゃないって。まどかさんみたいに何か手入れしてるわけじゃないし」

「それでこの肌質は凄いよね。若さだけの問題じゃないよ」

「もー、まどかさんこれ以上見るの禁止。俺だって30目前だからね。いつまでも若くないよ」

 そう言われてしまうと、私は更に若くないわけだから少し辛くなる。
 彼が体を起こすから、重心がずれてハンモックが大きく揺れる。ギシギシと音を立てるハンモックを両手で握りしめ、動きを止めれば急激に彼との距離が近付いて触れるだけのキスをされた。

「っ……」

 息を飲んで、自然と瞼が上にあがったのを感じる。こんなところでと慌てて周りをキョロキョロと見渡す。
 しかし、はしゃいでいる子供達や、自分達の世界に浸っているカップル達は、こちらを見向きもしていない。
 安堵して視線をあまねくんに戻せば、肩を震わせて笑いを堪えていた。

「もう! 外はダメだって言ったでしょ」

「誰も見てなかったでしょ。久しぶりのデートだから嬉しくなっちゃった。俺の彼女はこんなに可愛い人なんだよって見せびらかしたくなるし。あ、でもやっぱり、そういう可愛い顔は、俺の前でだけにしてほしいな」

 彼は、尽く私を赤面させる言葉を囁く。毎日こんなに甘い言葉を囁かれたら、動悸がして心臓が悲鳴をあげそうだ。
 いつまで経っても彼の魅力は消えない。それどころか増すばかりで、やっぱり一緒にいる時間が増えれば増えるほどもっと好きになっていく。
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