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前進

【53】

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「律くんもカッコいいけど、もちろんあまねくんだってカッコいいよ」

「そうやって、律のついでみたいに言う」

「そうじゃないってば」

 1度拗ねてしまうと、宥めるのが大変だ。こういうところ、時々子供っぽいんだよなぁ。

「でも、今日は妹に彼女をとられたわけだからね」

 また律くんが余計なことを言うものだから、この世の終わりみたいな顔をして隣の彼は私を見る。

「とられてないからね。今日は奏ちゃんの好意で病院まで連れてってくれたんだから。それより、今日は奏ちゃんのお祝いなんだよ?」

 そうやって言えば、「別にお祝いしてくれなくてもいいし」と照れ隠しをする奏ちゃん。料理が完成した時には目を輝かせていたのに、今は黙々と食べている。
 たまには料理をさせてあげた方がよさそうだ。
 普段は、外食か野菜スティックを買って食べるかだと言っていたから、体にはよくない。モデルとして運動には気を付けているようだが、食べ物には関心が薄いようだ。
 今は若いから何を食べても消費してしまうが、30代になったらそうはいかないことを理解していただきたい。

 和気あいあいとした食事が終わり、律くんがおばあちゃんの入浴を待って寝室へ送り届けると「まどかさんにいい報告がある」とにっこり笑ってくれた。

 こんな律くんの笑顔は、そうそう見られるものではないと、胸が熱くなる。
 なんて可愛い顔で笑うんだろう。いつもこんなふうに笑っていてくれたら、もっとモテるだろうに。
 そうはいっても、普段の寡黙な律くんでも相当モテることは想像がつく。

 リビングのソファに、あまねくんの父親と律くん、そして私とあまねくんとで腰かける。

「いい報告って……結城雅臣について?」

 前屈みになりながらそう尋ねる。

「もちろん。詐欺と証券取引法違反で捕まりましたよ」

「本当!?」

「うん。今日の夕方ね。とりあえずまだ勾留中だから、まどかさんの事件と同じで判決が出るまではまた一旦出てくることになると思いますけど」

「そっか……。それでも、もう1回勾留されたならまた暫く外に出ても大丈夫だよね?」

「そうですね。今週の休みは、久しぶりに周とどっかに行ってきたらどうですか?」

「いいの!?」

 顔を上げてあまねくんを見れば、彼も嬉しそうに笑ってくれる。このところ、デートらしいデートもできなかったから。
 来月は旅行したいねなんて言っていたが、そんなに遠出でなくてもいい。買い物だけだっていいから、彼とどこかに出掛けたい。

「どこに行きたいか決めておいてね」

「うん!」

 あまねくんが優しく微笑んでくれるから、ようやく私達にも平穏な日々がやってきたと心が軽くなった。
 あまねくんの言った通り、律くんの自信がある時は、いい方に向かっていくようだ。

 一旦釈放になれば、また不安は訪れる。全てが片付いたわけではない。
 それでも雅臣が野放しになっていた時のことを考えれば、あの窮屈で恐怖に支配された感覚から一時でも解き放たれることができた。
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