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前進
【36】
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父親の姿もあり、「事情は聞きました。客室が余っていますし、うちでよければ暫くいて下さい。妻も母も毎日いますので、1人でホテル暮らしをするよりか、不安は少ないかと」と言ってくれた。
アパートを新しく探すにしても、それにはまた外に出なければならないし、暫くホテル暮らしをすれば、すぐに貯金は底をつく。
姉がうちでよけばいてもいいと言ってはくれたが、新婚夫婦の家に転がり込むには、抵抗があった。
1度はお断りさせていただいたものの、結局行く宛はなく、暫く居候させてもらうことになった。
食事までいただいて、あまねくんの部屋に上がる。
実家の彼の部屋に入るのは初めてだった。中は、必要最低限の物しか置かれていない。
彼のマンションもさっぱりしているが、それ以上に物がない。
「必要なものはほとんどマンションに持ってっちゃったからね。寝て軽く着替えができればいいかなって思ってたから、それくらいしかないんだよね」
「まあ、そうだよね。私も、アパート出たら部屋を片付けられちゃったし。自分の生活が確立されちゃうと、実家に帰る機会って減るしね」
「そうだね。こんなに実家に帰ってくることが多くなるなんて思ってなかったし」
「……ごめん、私のせいで」
「違うって。もう誰のせいとかじゃないでしょ。俺は、嬉しいよ。俺の家族とまどかさんが一緒に住むの。だって、嫁いできたみたいじゃん」
「た、たしかに……。逆に籍も入れてないのに居候なんて申し訳ないけど」
「何言ってんの。もうすぐ籍入れるでしょ。結城さんの判決が出て、他の犯罪も暴いたらさ、もう1回まどかさんちに結婚の挨拶に行こう」
「……うん」
考えて見れば長い道のりだった。スムーズにいけば、とっくに挨拶は済んでいて、今頃は籍を入れて家をどうするかなんて話し合っていたところだ。
早く子どもが欲しいというあまねくんのためにも、お母さんになることまで考えながら生活していただろう。
こんなやり取り、あまねくんと会う度にしている気がする。今は、現実と向き合わなければならないのに、雅臣のことさえなければといつも思っているからだ。
今度こそ、雅臣のことが解決してくれるといい。
「そんなに浮かない顔しないで。今、律がまどかさんが持ってきたパンフレットとサンプルの確認してるところだからさ。律が大丈夫だって言ってるんだから、絶対大丈夫だよ。根拠のない自信がある時は、必ず好転するんだ。ジンクスみたいなものだけど」
「なんか、縁起がいいね」
「そうでしょ? だから、楽しいことも考えよう。最近、ずっとあの人とのことばかりだから。旅行とかも行きたいよね」
「旅行……行きたい!」
「ね。来月さ、有給まとめて取らせてもらえることになったんだ。お盆休みもあるし。まどかさん、まだ来月働かない?」
「うん。働こうかなって思ってたけど、あまねくんお休みあるならもうちょっと後にしようかな」
「やった。俺、多分ね15日くらい休みもらえる」
「え!? そんなことある!? それで月給なの?」
今までの職業柄、お盆休みのない私には、通常どのくらい休みがもらえるのかはわからない。しかし、月20日出勤が一般的であることには変わりはない。その中で、15日の休みなんて、ほとんど働かないではないか。
「もちろん月給だよ。今年ってさ、土日に挟まれてるんだよね。通常15日までがお盆休みなんだけど、16日金曜日だから、1日出勤してまた土日でしょ? だからそのまま16日も休みで9連休なの。そこから有給で1週間くらいはもらえるはずだから、8月はほとんど働かない」
彼は、クスクスと笑っている。いくら繁忙期が過ぎたとはいえ、そんなに休んで顧客は大丈夫なのだろうか。
「すごいね……。お客さん、大丈夫なの?」
「お客さんところも、ほとんど9連休だから、そこから1週間くらい休み貰っても大丈夫だよ。どうしても必要なら、どっか1日くらい休日出勤したっていいし」
あまねくんと夏を一緒に過ごすのは初めてのことだから、彼が毎年こんなにお休みがとれるのかは謎だけれど、「だから8月はずっと一緒にいよう」そんなことを言われて嬉しくない筈がない。
アパートを新しく探すにしても、それにはまた外に出なければならないし、暫くホテル暮らしをすれば、すぐに貯金は底をつく。
姉がうちでよけばいてもいいと言ってはくれたが、新婚夫婦の家に転がり込むには、抵抗があった。
1度はお断りさせていただいたものの、結局行く宛はなく、暫く居候させてもらうことになった。
食事までいただいて、あまねくんの部屋に上がる。
実家の彼の部屋に入るのは初めてだった。中は、必要最低限の物しか置かれていない。
彼のマンションもさっぱりしているが、それ以上に物がない。
「必要なものはほとんどマンションに持ってっちゃったからね。寝て軽く着替えができればいいかなって思ってたから、それくらいしかないんだよね」
「まあ、そうだよね。私も、アパート出たら部屋を片付けられちゃったし。自分の生活が確立されちゃうと、実家に帰る機会って減るしね」
「そうだね。こんなに実家に帰ってくることが多くなるなんて思ってなかったし」
「……ごめん、私のせいで」
「違うって。もう誰のせいとかじゃないでしょ。俺は、嬉しいよ。俺の家族とまどかさんが一緒に住むの。だって、嫁いできたみたいじゃん」
「た、たしかに……。逆に籍も入れてないのに居候なんて申し訳ないけど」
「何言ってんの。もうすぐ籍入れるでしょ。結城さんの判決が出て、他の犯罪も暴いたらさ、もう1回まどかさんちに結婚の挨拶に行こう」
「……うん」
考えて見れば長い道のりだった。スムーズにいけば、とっくに挨拶は済んでいて、今頃は籍を入れて家をどうするかなんて話し合っていたところだ。
早く子どもが欲しいというあまねくんのためにも、お母さんになることまで考えながら生活していただろう。
こんなやり取り、あまねくんと会う度にしている気がする。今は、現実と向き合わなければならないのに、雅臣のことさえなければといつも思っているからだ。
今度こそ、雅臣のことが解決してくれるといい。
「そんなに浮かない顔しないで。今、律がまどかさんが持ってきたパンフレットとサンプルの確認してるところだからさ。律が大丈夫だって言ってるんだから、絶対大丈夫だよ。根拠のない自信がある時は、必ず好転するんだ。ジンクスみたいなものだけど」
「なんか、縁起がいいね」
「そうでしょ? だから、楽しいことも考えよう。最近、ずっとあの人とのことばかりだから。旅行とかも行きたいよね」
「旅行……行きたい!」
「ね。来月さ、有給まとめて取らせてもらえることになったんだ。お盆休みもあるし。まどかさん、まだ来月働かない?」
「うん。働こうかなって思ってたけど、あまねくんお休みあるならもうちょっと後にしようかな」
「やった。俺、多分ね15日くらい休みもらえる」
「え!? そんなことある!? それで月給なの?」
今までの職業柄、お盆休みのない私には、通常どのくらい休みがもらえるのかはわからない。しかし、月20日出勤が一般的であることには変わりはない。その中で、15日の休みなんて、ほとんど働かないではないか。
「もちろん月給だよ。今年ってさ、土日に挟まれてるんだよね。通常15日までがお盆休みなんだけど、16日金曜日だから、1日出勤してまた土日でしょ? だからそのまま16日も休みで9連休なの。そこから有給で1週間くらいはもらえるはずだから、8月はほとんど働かない」
彼は、クスクスと笑っている。いくら繁忙期が過ぎたとはいえ、そんなに休んで顧客は大丈夫なのだろうか。
「すごいね……。お客さん、大丈夫なの?」
「お客さんところも、ほとんど9連休だから、そこから1週間くらい休み貰っても大丈夫だよ。どうしても必要なら、どっか1日くらい休日出勤したっていいし」
あまねくんと夏を一緒に過ごすのは初めてのことだから、彼が毎年こんなにお休みがとれるのかは謎だけれど、「だから8月はずっと一緒にいよう」そんなことを言われて嬉しくない筈がない。
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