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前進
【29】
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母が父を説得してくれた日から、あまねくんが家に来るという形でなら会うことが許されるようになった。
彼は、そんなに頻繁にお邪魔するのも失礼だよね……なんて遠慮していたが、私の体調も気遣ってか、週に2回くらいのペースで訪れるようになった。
私もあまり抵抗なく、1人で心療内科に行けるようになった。
「以前よりもかなり表情がよくなりましたね」
「はい。彼に会えるようになったんです」
「そうでしたか。それで、不安は少し減りましたか?」
「はい。気持ち的にも楽になりましたし、彼が休みの時には昼過ぎから来てくれることもあるので、またオシャレすることも楽しみになりました」
病院へしか外出できないため、ここへ来る時にはいつもスッピンに眼鏡、マスクをしている。
それでも表情が良くなったと言ってくれるのだから、顔色も戻ってきているのだろう。
このところ、肌荒れも改善されてきている。
あまねくんが泊まりにくると同じペースで寝起きするため、自然と私も規則正しい生活を送りつつあった。
たまにはあまねくんに私の手料理も食べて欲しくて、前日から張り切って下準備をしたりと充実した日々を過ごしていた。
「それはよかったです。やっぱり楽しいことが見つかると、人は元気になっていくんですね」
「そうなんですね、きっと。でも、古河先生のお陰でもあります。安定剤を拒んだ私に漢方薬を出していただけたし……」
「ちゃんと飲まれていますか?」
「はい。朝昼夕と毎食時に必ず飲むようにしています」
「では、薬の効果もあるのでしょう。イライラなどを抑えてくれるお薬ですからね」
「まだ暫く続けた方がいいんですかね?」
「急にやめるのが1番よくないので、暫く続けて下さい。以前話していただいた昔お付き合いされていた方のことはまだ解決してないんですよね?」
初めて古河先生と会ってから数回目なのに、よく覚えているなぁと彼の記憶力に感心する。
さすが医者だ。
「はい。いい方向には向かっていると思うんですけど……」
「では、それが解決するまでを目標に頑張りましょうか」
「解決するまで……」
具体的な期間が提案されたようで、本来は先の見えない不確かな目標。
しかし、根元が解決されなければ症状はぶり返す恐れがあると言われ、薬をしっかり飲むようになってから以前の自分に戻りつつあるような気もするため、医師の指示に従うことにした。
追加の処方を貰い、帰宅する。
早速昼分の薬を飲んで、部屋の掃除でもしようと思っているところに玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろう。宗教の勧誘か、宅配便だろうか。荷物が届くのであればあらかじめ母からそう言われる筈だ。
それなら何かの押し売りか……。
インターフォンのモニターを見ると、スーツを着たいかにも営業マンといった風貌だった。
やっぱり何かの押し売りか。
いつもなら居留守を使うけれど、なんとなく出てみようと思った。
ドアを開けると、爽やかな雰囲気を纏った青年が張り付いたような笑顔を見せた。
いかにも作り笑顔という感じだ。
「こんにちは。今、お時間よろしいでしょうか」
「……なんでしょう」
「私、こういう者でして」
そう言って渡された名刺には、株式会社サンケアの文字が書かれていた。
じっとりと変な汗が滲んでくるのがわかった。これは決して夏日のせいなんかじゃない。
2週間前にあまねくんが、雅臣の会社名を言っていたのを思い出したからだ。
彼は、そんなに頻繁にお邪魔するのも失礼だよね……なんて遠慮していたが、私の体調も気遣ってか、週に2回くらいのペースで訪れるようになった。
私もあまり抵抗なく、1人で心療内科に行けるようになった。
「以前よりもかなり表情がよくなりましたね」
「はい。彼に会えるようになったんです」
「そうでしたか。それで、不安は少し減りましたか?」
「はい。気持ち的にも楽になりましたし、彼が休みの時には昼過ぎから来てくれることもあるので、またオシャレすることも楽しみになりました」
病院へしか外出できないため、ここへ来る時にはいつもスッピンに眼鏡、マスクをしている。
それでも表情が良くなったと言ってくれるのだから、顔色も戻ってきているのだろう。
このところ、肌荒れも改善されてきている。
あまねくんが泊まりにくると同じペースで寝起きするため、自然と私も規則正しい生活を送りつつあった。
たまにはあまねくんに私の手料理も食べて欲しくて、前日から張り切って下準備をしたりと充実した日々を過ごしていた。
「それはよかったです。やっぱり楽しいことが見つかると、人は元気になっていくんですね」
「そうなんですね、きっと。でも、古河先生のお陰でもあります。安定剤を拒んだ私に漢方薬を出していただけたし……」
「ちゃんと飲まれていますか?」
「はい。朝昼夕と毎食時に必ず飲むようにしています」
「では、薬の効果もあるのでしょう。イライラなどを抑えてくれるお薬ですからね」
「まだ暫く続けた方がいいんですかね?」
「急にやめるのが1番よくないので、暫く続けて下さい。以前話していただいた昔お付き合いされていた方のことはまだ解決してないんですよね?」
初めて古河先生と会ってから数回目なのに、よく覚えているなぁと彼の記憶力に感心する。
さすが医者だ。
「はい。いい方向には向かっていると思うんですけど……」
「では、それが解決するまでを目標に頑張りましょうか」
「解決するまで……」
具体的な期間が提案されたようで、本来は先の見えない不確かな目標。
しかし、根元が解決されなければ症状はぶり返す恐れがあると言われ、薬をしっかり飲むようになってから以前の自分に戻りつつあるような気もするため、医師の指示に従うことにした。
追加の処方を貰い、帰宅する。
早速昼分の薬を飲んで、部屋の掃除でもしようと思っているところに玄関のチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろう。宗教の勧誘か、宅配便だろうか。荷物が届くのであればあらかじめ母からそう言われる筈だ。
それなら何かの押し売りか……。
インターフォンのモニターを見ると、スーツを着たいかにも営業マンといった風貌だった。
やっぱり何かの押し売りか。
いつもなら居留守を使うけれど、なんとなく出てみようと思った。
ドアを開けると、爽やかな雰囲気を纏った青年が張り付いたような笑顔を見せた。
いかにも作り笑顔という感じだ。
「こんにちは。今、お時間よろしいでしょうか」
「……なんでしょう」
「私、こういう者でして」
そう言って渡された名刺には、株式会社サンケアの文字が書かれていた。
じっとりと変な汗が滲んでくるのがわかった。これは決して夏日のせいなんかじゃない。
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