190 / 289
前進
【28】
しおりを挟む
可愛らしい彼を促して着替えをさせる。私も寝間着姿でリビングに降りれば父から嫌味を言われるため、適当な普段着に着替えた。
ダイニングテーブルには、既に父の姿があった。新聞を広げて目を通している。
「おはようございます」
あまねくんが声をかけたが、父は知らん顔で新聞を読み続けている。
子供か。まるで喧嘩をした後の小学生だ。
そんな父を見た母は、キッチンから「あなた」と低い声で一言呼んだ。
「……おはよう」
数秒間があったが、父は渋々といったように挨拶をした。昨日のことがあり、父が母に頭が上がらないことは承知している。
たったの一言で父を動かすのだから大したものだ。
父は、いつもの席に座っている。ドアを開けて手前側の1番右の席。4人掛けテーブルだが、少し大きめのテーブル。
私が父の前に座り、その横にあまねくんを促した。昨晩と同じ配置だ。
「はい、おまたせ」
すぐに雑穀米とワカメと豆腐の味噌汁、だし巻き卵にあじの塩焼き、ほうれん草とベーコン、コーンのバター炒め、ひじきと蓮根の煮物。THE・朝ごはん。
よく朝からこんなに作る気になるな。
私もアパート暮らしの時には、朝ごはんを作っていたけれど、こんなに多くの品はとても用意できなかった。
我が家では、子供の頃からこういった朝食から始まる。それは、言うまでもなく父が一汁三菜に拘るから。
マジで自分で作れ。朝から3品毎日揃える大変さを身をもって知れ。
いつか嫁に出たら言ってやろうと新聞越しに父を睨んでやった。
「凄いですね……朝から豪華です」
ほら、あまねくんも驚いている。
「そう? 量多かった?」
「いえ、美味しそうだなって思って。昨日の食事もとても美味しかったです」
「本当? よかった。またいつでも食べに来てね」
「ありがとうございます」
母とあまねくんのやり取りは聞こえている筈なのに、父はずっと新聞を読んでいる。さっきからずっと同じページを開いているから、読んでいるというよりもふりなのだろう。
私とあまねくんは、早速食べ始めたが、父はいつまで経っても新聞を広げており、「食べないなら下げますよ」母のその一言で諦めたかのように食べ始めた。
隣の彼が笑いを堪えているのがわかり、私もつられてしまいそうだった。
食後、あまねくんを玄関まで見送る。久しぶりに満たされた気分だった。
「あまねくん、やっぱりいい子ね」
私と一緒に見送りをした母がそう言った。
「うん。お母さん、昨日はありがとうね」
「んー?」
「お父さんのこと。ちょっと喧嘩になったでしょ」
「あら、聞こえてた?」
ふふっと笑って肩をすくめる母。
「お父さん、頑固だからね。一旦喋り出すとうるさいから、お母さんもなるべく何も言わないようにしてたけど、さすがに今回のは酷かったから。本当にこの家が嫌になったら言いなさいよ。アパート借りるくらいのお金ならあるんだから」
「ありがとう」
お礼を言うと、何年かぶりに頭を撫でられた。いくつになっても母にとっては、私は子供らしい。家の中に1人でも味方がいれば心強い。
早く雅臣のことが解決してくれるのを祈った。
ダイニングテーブルには、既に父の姿があった。新聞を広げて目を通している。
「おはようございます」
あまねくんが声をかけたが、父は知らん顔で新聞を読み続けている。
子供か。まるで喧嘩をした後の小学生だ。
そんな父を見た母は、キッチンから「あなた」と低い声で一言呼んだ。
「……おはよう」
数秒間があったが、父は渋々といったように挨拶をした。昨日のことがあり、父が母に頭が上がらないことは承知している。
たったの一言で父を動かすのだから大したものだ。
父は、いつもの席に座っている。ドアを開けて手前側の1番右の席。4人掛けテーブルだが、少し大きめのテーブル。
私が父の前に座り、その横にあまねくんを促した。昨晩と同じ配置だ。
「はい、おまたせ」
すぐに雑穀米とワカメと豆腐の味噌汁、だし巻き卵にあじの塩焼き、ほうれん草とベーコン、コーンのバター炒め、ひじきと蓮根の煮物。THE・朝ごはん。
よく朝からこんなに作る気になるな。
私もアパート暮らしの時には、朝ごはんを作っていたけれど、こんなに多くの品はとても用意できなかった。
我が家では、子供の頃からこういった朝食から始まる。それは、言うまでもなく父が一汁三菜に拘るから。
マジで自分で作れ。朝から3品毎日揃える大変さを身をもって知れ。
いつか嫁に出たら言ってやろうと新聞越しに父を睨んでやった。
「凄いですね……朝から豪華です」
ほら、あまねくんも驚いている。
「そう? 量多かった?」
「いえ、美味しそうだなって思って。昨日の食事もとても美味しかったです」
「本当? よかった。またいつでも食べに来てね」
「ありがとうございます」
母とあまねくんのやり取りは聞こえている筈なのに、父はずっと新聞を読んでいる。さっきからずっと同じページを開いているから、読んでいるというよりもふりなのだろう。
私とあまねくんは、早速食べ始めたが、父はいつまで経っても新聞を広げており、「食べないなら下げますよ」母のその一言で諦めたかのように食べ始めた。
隣の彼が笑いを堪えているのがわかり、私もつられてしまいそうだった。
食後、あまねくんを玄関まで見送る。久しぶりに満たされた気分だった。
「あまねくん、やっぱりいい子ね」
私と一緒に見送りをした母がそう言った。
「うん。お母さん、昨日はありがとうね」
「んー?」
「お父さんのこと。ちょっと喧嘩になったでしょ」
「あら、聞こえてた?」
ふふっと笑って肩をすくめる母。
「お父さん、頑固だからね。一旦喋り出すとうるさいから、お母さんもなるべく何も言わないようにしてたけど、さすがに今回のは酷かったから。本当にこの家が嫌になったら言いなさいよ。アパート借りるくらいのお金ならあるんだから」
「ありがとう」
お礼を言うと、何年かぶりに頭を撫でられた。いくつになっても母にとっては、私は子供らしい。家の中に1人でも味方がいれば心強い。
早く雅臣のことが解決してくれるのを祈った。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる