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前進
【23】
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「俺も……まさかまどかさんに会えない間に、こんなにもまどさんが苦しんでるなんて思ってもみなかった。体が弱れば、心も弱るのにね……。誰だって心に負担はかかるのに。そこまで頭が回らなかった俺にも責任あるよ」
「責任なんてないよ! 今日会いたいって言ったら、すぐに来てくれたし……あまねくんが私のことほったらかしにしたことなんてないでしょ?」
「……そうかな? 結城さんのことに気を取られ過ぎて、まどかさんのことおざなりになってた気がする。ご両親に任せておく方が安心だって勝手に思ってた」
私を抱き締めたまま、彼は頬を擦り寄せる。私の存在を確かめるかのような行動に、愛されている実感が湧いてくる。
「ありがとう。お母さんがね、病気になるくらいなら、あまねくんに来てもらった方がいいねって言ってくれたの」
「そっか。お父さんの方は……?」
「実は、まだお父さんは知らないの」
「え!?」
「お母さんが説得してくれるって。だからここに避難してなさいってさっき……」
「それで……」
あまねくんは、数回頷き納得したようだった。私が初めてあまねくんの実家に行った時、奏ちゃんに結婚を否定された。その時、あまねくんと会うのは気まずいと思ったし、できればもう奏ちゃんとは会いたくないとさえ思った。
おそらくあまねくんも、あの時の私と同じ気持ちだろう。ましてや、父親に反対されたとあっては兄妹よりも質が悪い。
会う度に父に嫌味を言われ、追い返され、私と会わせることすら拒否されたら、あまねくんだっていささか嫌になるだろう。
それなのに彼は、こんな時でも自分よりも私のことを優先させてくれた。
私のことなど絶対に認めないと言っていた奏ちゃんも、電話をくれてあまねくんに体調のことを伝えてくれた。
ほんの少しずつだけれど、奏ちゃんとの距離が近付いてきていると実感できた。
こんなふうに、時間がかかっても父があまねくんのことを認めてくれたらいいのに。そう思ってやまない。
「奏ちゃんも、電話くれたんだね」
「ああ、うん。俺も驚いた。確かに番号教えたけど、実際にまどかさんにかけるなんて思ってなかったし。体調悪いくせに遠慮して会いたいって言えないみたいだから、俺から連絡してあげたらって言ってたよ」
「嘘でしょ…? どういう……」
「風の吹き回し?」
ついぽろっと口走りそうになり、はっとあまねくんの妹であることを思い出して口をつぐんだが、彼の方が笑いながら言葉を続けた。
「ごめん、珍しいと思って……」
「いや、俺も驚いてるから。言いたいことはわかるよ。ばあちゃん倒れてからやたらとばあちゃんのこと気にかけてるし。散々会わないようにしてきたから、その時間を埋めようとしてるのかな? あの日から3日くらいは実家にいたみたいだし、1日東京に仕事しに行って、また帰って来たって律が言ってた」
「そう……。やっぱり奏ちゃん、おばあちゃんのこと大好きなんだね」
「うん。だから多分、ばあちゃんが倒れた時にすぐ対応してくれたまどかさんに感謝してるんだと思う」
感謝されるようなことはしてないのだけれど、それがきっかけで彼女が少しずつ私に心を開いてくれているのなら必死に対応したかいがあったというものだ。
ふふっとおかしそうに笑うあまねくんを見て、少しずついい方向に向かっているような気がした。
「責任なんてないよ! 今日会いたいって言ったら、すぐに来てくれたし……あまねくんが私のことほったらかしにしたことなんてないでしょ?」
「……そうかな? 結城さんのことに気を取られ過ぎて、まどかさんのことおざなりになってた気がする。ご両親に任せておく方が安心だって勝手に思ってた」
私を抱き締めたまま、彼は頬を擦り寄せる。私の存在を確かめるかのような行動に、愛されている実感が湧いてくる。
「ありがとう。お母さんがね、病気になるくらいなら、あまねくんに来てもらった方がいいねって言ってくれたの」
「そっか。お父さんの方は……?」
「実は、まだお父さんは知らないの」
「え!?」
「お母さんが説得してくれるって。だからここに避難してなさいってさっき……」
「それで……」
あまねくんは、数回頷き納得したようだった。私が初めてあまねくんの実家に行った時、奏ちゃんに結婚を否定された。その時、あまねくんと会うのは気まずいと思ったし、できればもう奏ちゃんとは会いたくないとさえ思った。
おそらくあまねくんも、あの時の私と同じ気持ちだろう。ましてや、父親に反対されたとあっては兄妹よりも質が悪い。
会う度に父に嫌味を言われ、追い返され、私と会わせることすら拒否されたら、あまねくんだっていささか嫌になるだろう。
それなのに彼は、こんな時でも自分よりも私のことを優先させてくれた。
私のことなど絶対に認めないと言っていた奏ちゃんも、電話をくれてあまねくんに体調のことを伝えてくれた。
ほんの少しずつだけれど、奏ちゃんとの距離が近付いてきていると実感できた。
こんなふうに、時間がかかっても父があまねくんのことを認めてくれたらいいのに。そう思ってやまない。
「奏ちゃんも、電話くれたんだね」
「ああ、うん。俺も驚いた。確かに番号教えたけど、実際にまどかさんにかけるなんて思ってなかったし。体調悪いくせに遠慮して会いたいって言えないみたいだから、俺から連絡してあげたらって言ってたよ」
「嘘でしょ…? どういう……」
「風の吹き回し?」
ついぽろっと口走りそうになり、はっとあまねくんの妹であることを思い出して口をつぐんだが、彼の方が笑いながら言葉を続けた。
「ごめん、珍しいと思って……」
「いや、俺も驚いてるから。言いたいことはわかるよ。ばあちゃん倒れてからやたらとばあちゃんのこと気にかけてるし。散々会わないようにしてきたから、その時間を埋めようとしてるのかな? あの日から3日くらいは実家にいたみたいだし、1日東京に仕事しに行って、また帰って来たって律が言ってた」
「そう……。やっぱり奏ちゃん、おばあちゃんのこと大好きなんだね」
「うん。だから多分、ばあちゃんが倒れた時にすぐ対応してくれたまどかさんに感謝してるんだと思う」
感謝されるようなことはしてないのだけれど、それがきっかけで彼女が少しずつ私に心を開いてくれているのなら必死に対応したかいがあったというものだ。
ふふっとおかしそうに笑うあまねくんを見て、少しずついい方向に向かっているような気がした。
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