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前進
【22】
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しゃくりあげる私を、何も言わずに抱き締めてくれている。彼の服が私の涙を吸い込んでいく。
それでも涙は止まらなくて、彼の優しさに寄りかかる。あまねくんに全てを委ねることがこんなに楽なことだったなんて。
こんなことなら、父の反対を押しきってでも会いに行けばよかったかもしれない。そうは思うけれど、両親の心配を蔑ろにできないからこんなにも我慢してしまったのだと思考は振り出しに戻る。
暫くそうしていると、徐々に落ち着き、体中の水分がなくなったかのようにピタリと涙が止まった。
すっきりしたのだろうか。体がもう泣かなくていいと判断できるほど、安心できたのだろうか。
どちらでもいいけれど、泣き止んだ顔であまねくんを見上げれば、「鼻の頭まで真っ赤になっちゃったね」と言って笑いながら人差し指で、私の鼻をつついた。
その行動に自然と笑みは溢れ、幸せな気持ちになる。
再びあまねくんの胸に頭を預けると、「まどかさん、体調悪いのやっぱり風邪だったの? 薬飲んでちょっとよくなった?」と私に尋ねると同時に、カサッと紙が擦れるような音がした。
直ぐ様、それが薬袋だと気付くが、私が振り返るよりも先に、彼はそれを手に取っていた。
2回目の薬を飲んだ後、ガラステーブルの収納スペースに置いておいたままだった。丁度彼の目に入ってしまったのだろう。
「え……心療内科って……」
薬剤名の上に、心療内科と印字されていた。わざわざそんなこと書かなくてもいいのに……。
あまねくんに見られてしまったことで、自分から言い出せなかった後ろめたさが込み上げる。
「風邪じゃないの?」
「うん……。ストレスからくる自律神経の病気なんだって」
「ストレス? そっか……。そうだよね。考えることも不安もいっぱいあるもんね。そんな時に、傍にいてあげられなかったんだね、俺……」
「病気になる程、あまねくんに会いたかったみたい」
「傍にいてあげられなくてごめんね」
「ううん。だって、それはお父さんが言ったことだから、あまねくんは悪くないよ」
「でも……。俺がやだ。まどかさんが辛い時、1番近くにいるのは俺でありたい」
あまねくんは、ぎゅうっと強く私を抱き締めた。こんなに力強くあまねくんの腕を感じたのは久しぶりだった。
クリスマスイブの夜を思い出す。
私はあんなにも心療内科にかかるのは嫌だとだだをこねたのに、あまねくんは静かに、すんなりと私を受け入れてくれた。
「そんなふうに言ってくれたら、嫌な気持ちも吹っ飛ぶ」
「ねぇ、まどかさん。もしも今回みたいに具合が悪くなる程辛くなったら、すぐに連絡して。まどかさんのお父さんに追い返されても、怒鳴られても、諦めずに会いにくるから。1人で抱え込まないで」
「うん……。ありがとう」
「ねぇ、ちゃんとわかってる? まどかさん、すぐに強がって我慢するから、ちゃんと言ってくれないと、俺今回みたいに見逃しちゃう……。自分の不甲斐なさに腹立つ……」
「そんなこと言わないで。私だって、最初は寝てばっかりいるからやる気が起きないんだと思ってたの。まさか自分が心の病気になるなんて思ってなかったの。だから、自分でも気付かなかった……」
それなのに、あまねくんが自分を責めるのは間違っている。私自身が気付かなかったことを、彼が気付けるはずがないのだから。
それでも涙は止まらなくて、彼の優しさに寄りかかる。あまねくんに全てを委ねることがこんなに楽なことだったなんて。
こんなことなら、父の反対を押しきってでも会いに行けばよかったかもしれない。そうは思うけれど、両親の心配を蔑ろにできないからこんなにも我慢してしまったのだと思考は振り出しに戻る。
暫くそうしていると、徐々に落ち着き、体中の水分がなくなったかのようにピタリと涙が止まった。
すっきりしたのだろうか。体がもう泣かなくていいと判断できるほど、安心できたのだろうか。
どちらでもいいけれど、泣き止んだ顔であまねくんを見上げれば、「鼻の頭まで真っ赤になっちゃったね」と言って笑いながら人差し指で、私の鼻をつついた。
その行動に自然と笑みは溢れ、幸せな気持ちになる。
再びあまねくんの胸に頭を預けると、「まどかさん、体調悪いのやっぱり風邪だったの? 薬飲んでちょっとよくなった?」と私に尋ねると同時に、カサッと紙が擦れるような音がした。
直ぐ様、それが薬袋だと気付くが、私が振り返るよりも先に、彼はそれを手に取っていた。
2回目の薬を飲んだ後、ガラステーブルの収納スペースに置いておいたままだった。丁度彼の目に入ってしまったのだろう。
「え……心療内科って……」
薬剤名の上に、心療内科と印字されていた。わざわざそんなこと書かなくてもいいのに……。
あまねくんに見られてしまったことで、自分から言い出せなかった後ろめたさが込み上げる。
「風邪じゃないの?」
「うん……。ストレスからくる自律神経の病気なんだって」
「ストレス? そっか……。そうだよね。考えることも不安もいっぱいあるもんね。そんな時に、傍にいてあげられなかったんだね、俺……」
「病気になる程、あまねくんに会いたかったみたい」
「傍にいてあげられなくてごめんね」
「ううん。だって、それはお父さんが言ったことだから、あまねくんは悪くないよ」
「でも……。俺がやだ。まどかさんが辛い時、1番近くにいるのは俺でありたい」
あまねくんは、ぎゅうっと強く私を抱き締めた。こんなに力強くあまねくんの腕を感じたのは久しぶりだった。
クリスマスイブの夜を思い出す。
私はあんなにも心療内科にかかるのは嫌だとだだをこねたのに、あまねくんは静かに、すんなりと私を受け入れてくれた。
「そんなふうに言ってくれたら、嫌な気持ちも吹っ飛ぶ」
「ねぇ、まどかさん。もしも今回みたいに具合が悪くなる程辛くなったら、すぐに連絡して。まどかさんのお父さんに追い返されても、怒鳴られても、諦めずに会いにくるから。1人で抱え込まないで」
「うん……。ありがとう」
「ねぇ、ちゃんとわかってる? まどかさん、すぐに強がって我慢するから、ちゃんと言ってくれないと、俺今回みたいに見逃しちゃう……。自分の不甲斐なさに腹立つ……」
「そんなこと言わないで。私だって、最初は寝てばっかりいるからやる気が起きないんだと思ってたの。まさか自分が心の病気になるなんて思ってなかったの。だから、自分でも気付かなかった……」
それなのに、あまねくんが自分を責めるのは間違っている。私自身が気付かなかったことを、彼が気付けるはずがないのだから。
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