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前進
【20】
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「そうなんだ。お父さんとお母さんの好みが違うから統一感ないんだよ」
そう笑って言えば、「不思議だけどオシャレだね」と彼は言った。外観はゴリゴリの和風なのに、ちらほらとある洋風の箇所。
オシャレかどうかは不明だけれど、両親が納得する形で建てることができたので、家族にとってはそれでよかったのだろう。
出された食事を2人で食べ始める。
「先に食べてしまっていいんでしょうか……?」
あまねくんは、遠慮がちに母にそう尋ねた。あれだけ散々文句を言った父のことだ。会うなと言われたにも関わらず、父のいない隙にやって来て、自分よりも先に食べているだなんて面白くないだろう。
そんな父の性格を理解しているからこその発言である。
「いいのよ。お父さんとは、私が一緒に食べるから。どうせまどかが帰ってくる前は2人で食事だったんだもの。それに今頃は期末テストの採点中だから、帰り遅いし」
あ……あの期末テストは無事に終わったんだ。先週は、作っている最中だと聞いた。いつの間にかそれも終わって、採点中か。全ての教科が帰ってくれば夏休みだ。
「そうでしたか。お先にいただいてしまってすみません」
「いいの、いいの。気にしないで。それより、ご飯食べたらまどかの部屋に避難してなさい。後は、お母さんがお父さんと話しておくから」
母がそう言ったことの意味が理解できないのか、あまねくんはきょとんとした表情で私を見る。
苦笑する私は「後で話す」と言ってから、食事を続けた。
私達が食事を終えても、父はまだ帰宅しなかった。私達は、母に言われたように私の自室に避難した。
そっと扉を閉める。
「あ、家具とかそのままだ。懐かしい」
ベッドやテーブルを見て、あまねくんは声を弾ませる。
「うん。明らかにこの部屋の方が狭いから、ちゃんと綺麗には入らなかったんだけどね」
「確かに、これじゃクローゼットも開かないね」
彼は、クローゼットの取っ手を掴んで笑う。外に出る機会も減ったから、そこから出すのは寝間着くらいだけれど。
「そうなの。使い勝手は悪いけどしょうがないね。捨てるのももったいないし」
「うん。思い出いっぱいだもんね。俺も残ってて嬉しい。全然違う雰囲気だとちょっと寂しいなって思う」
「でも、思いの外狭くてさ、座椅子に変えたよ。そこ座って」
ソファーはお気に入りだったけれど、雅臣に押し倒された忌まわしい過去があるから、もちろんこの部屋に入らないという理由もあるけれど、気持ち悪いので処分した。
代わりにホームセンターで座椅子を購入し、その場しのぎの生活スペースを確保した。
そこにあまねくんを促し、私はベッドの上に座る。
こんな狭い空間に2人きりだなんて、浴室以来で緊張する。
あまねくんと過ごす生活スペースは、リビングが多かったし、私のアパートもそれなりの広さはあった。あまねくんの住むマンションは、それ以上に広い。
彼のオシャレなマンションにもまた行きたいなぁなんて思いながら、彼の顔を見る。
「あんまりご飯進まなかったね」
不意にそう言われたものだから、一瞬思考が停止した。すぐに自分が暫く食事をしていなかったと言ったことを思い出し、「胃がちっちゃくなっちゃったのかもね。食欲がないわけじゃないけど、思ったより入っていかなかった」と言った。
「俺、たくさん食べるまどかさん好きだったんだけどなぁ」
少し寂しそうに彼が言う。普段の私は食べる方だと思う。体を動かす仕事というのもあったけれど、量で言えばあまねくんと同じくらい食べていた。20代の成人男性と同じ量を食すのだから、もちろん可愛いげはない。
最初こそは遠慮して、食事も控えめにしていたのだけれど、宿泊する回数が増えれば当然空腹感に耐えられない日がやってくる。
とうとう本当の食欲をカミングアウトした時には、「美味しそうに食べるまどかさん見てるの好きだから、たくさん食べるの可愛くて好きだよ。ハムスターみたいで可愛いじゃん」なんて言ってくれた。
私は、ハムスターみたいに頬袋に詰め込んでものを食べたりはしないのだけれど、彼のその一言がとても嬉しかったのを覚えている。
そう笑って言えば、「不思議だけどオシャレだね」と彼は言った。外観はゴリゴリの和風なのに、ちらほらとある洋風の箇所。
オシャレかどうかは不明だけれど、両親が納得する形で建てることができたので、家族にとってはそれでよかったのだろう。
出された食事を2人で食べ始める。
「先に食べてしまっていいんでしょうか……?」
あまねくんは、遠慮がちに母にそう尋ねた。あれだけ散々文句を言った父のことだ。会うなと言われたにも関わらず、父のいない隙にやって来て、自分よりも先に食べているだなんて面白くないだろう。
そんな父の性格を理解しているからこその発言である。
「いいのよ。お父さんとは、私が一緒に食べるから。どうせまどかが帰ってくる前は2人で食事だったんだもの。それに今頃は期末テストの採点中だから、帰り遅いし」
あ……あの期末テストは無事に終わったんだ。先週は、作っている最中だと聞いた。いつの間にかそれも終わって、採点中か。全ての教科が帰ってくれば夏休みだ。
「そうでしたか。お先にいただいてしまってすみません」
「いいの、いいの。気にしないで。それより、ご飯食べたらまどかの部屋に避難してなさい。後は、お母さんがお父さんと話しておくから」
母がそう言ったことの意味が理解できないのか、あまねくんはきょとんとした表情で私を見る。
苦笑する私は「後で話す」と言ってから、食事を続けた。
私達が食事を終えても、父はまだ帰宅しなかった。私達は、母に言われたように私の自室に避難した。
そっと扉を閉める。
「あ、家具とかそのままだ。懐かしい」
ベッドやテーブルを見て、あまねくんは声を弾ませる。
「うん。明らかにこの部屋の方が狭いから、ちゃんと綺麗には入らなかったんだけどね」
「確かに、これじゃクローゼットも開かないね」
彼は、クローゼットの取っ手を掴んで笑う。外に出る機会も減ったから、そこから出すのは寝間着くらいだけれど。
「そうなの。使い勝手は悪いけどしょうがないね。捨てるのももったいないし」
「うん。思い出いっぱいだもんね。俺も残ってて嬉しい。全然違う雰囲気だとちょっと寂しいなって思う」
「でも、思いの外狭くてさ、座椅子に変えたよ。そこ座って」
ソファーはお気に入りだったけれど、雅臣に押し倒された忌まわしい過去があるから、もちろんこの部屋に入らないという理由もあるけれど、気持ち悪いので処分した。
代わりにホームセンターで座椅子を購入し、その場しのぎの生活スペースを確保した。
そこにあまねくんを促し、私はベッドの上に座る。
こんな狭い空間に2人きりだなんて、浴室以来で緊張する。
あまねくんと過ごす生活スペースは、リビングが多かったし、私のアパートもそれなりの広さはあった。あまねくんの住むマンションは、それ以上に広い。
彼のオシャレなマンションにもまた行きたいなぁなんて思いながら、彼の顔を見る。
「あんまりご飯進まなかったね」
不意にそう言われたものだから、一瞬思考が停止した。すぐに自分が暫く食事をしていなかったと言ったことを思い出し、「胃がちっちゃくなっちゃったのかもね。食欲がないわけじゃないけど、思ったより入っていかなかった」と言った。
「俺、たくさん食べるまどかさん好きだったんだけどなぁ」
少し寂しそうに彼が言う。普段の私は食べる方だと思う。体を動かす仕事というのもあったけれど、量で言えばあまねくんと同じくらい食べていた。20代の成人男性と同じ量を食すのだから、もちろん可愛いげはない。
最初こそは遠慮して、食事も控えめにしていたのだけれど、宿泊する回数が増えれば当然空腹感に耐えられない日がやってくる。
とうとう本当の食欲をカミングアウトした時には、「美味しそうに食べるまどかさん見てるの好きだから、たくさん食べるの可愛くて好きだよ。ハムスターみたいで可愛いじゃん」なんて言ってくれた。
私は、ハムスターみたいに頬袋に詰め込んでものを食べたりはしないのだけれど、彼のその一言がとても嬉しかったのを覚えている。
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