上 下
161 / 289
再会

【61】

しおりを挟む
「そんなこと言わないで。おばあちゃんが皆を待ってるって言ったのを受け入れたのは私だもの」

「母さん、もういいから。まどかさんも、誰が悪いとかじゃないよ。まどかさんのおかげでばあちゃんも意識戻ったんだしさ」

 私とダリアさんとで、お互い自分を責め始めているところに、あまねくんはそう割って入る。彼の言うように、誰が悪いわけではない。たまたま悪い因子が重なっただけだ。

「そうね。きっと何でもなければおばあちゃんも病院から戻ってくるでしょうし。周、悪いけどもし連絡が来たらお父さん達のお迎えに行ってくれる?」

「いいよ。どこの病院に運ばれるかはわからないけど、多分律が連絡よこすと思うし。とりあえず、俺はまどかさん送ってくるよ」

 あまねくんは、ダリアさんとそう会話し、私に「じゃあ行こうか」と声をかけた。

「まどかちゃん、本当にありがとう。また待ってるからね」

「はい。いつもどんなお茶が出てくるのか楽しみなんです。また遊びに来させていただきます」

「じゃあ、また美味しい紅茶を選んでおくわね。楽しみにしてる」

「私もです」

「それじゃ、気を付けてね」

 ダリアさんは玄関まで送ってくれ、私はあまねくんと駐車場へ向かった。中庭を抜けて門構えを閉め、もう少しであまねくんの車というところで、後ろからカツカツと早足の音が聞こえる。

 気になって振り返れば、ちょうど「待って!」と呼び止められた。小走りで追いかけてきたのは奏ちゃんだ。
 てっきりに自室に籠ってしまったのだと思っていた。

「あのっ……おばあちゃんのこと……ありがとう」

 彼女は、顔を背けながら、消え入りそうなほど小さな声で言った。
 私は、驚いてすぐに声がでなかった。奏ちゃんがお礼を言った。あんなに私のことを嫌っていたのに。
 彼女にとっては、私を追いかけてお礼を言うなんて嫌だっただろうに。それでもそれをしたのは、やはりおばあちゃんのことが大事だったからだろう。その気持ちが素直に嬉しかった。

「どういたしまして。おばあちゃんのこと、大事にしてあげてよ」

 彼女がお礼なんて言わなきゃよかっただなんて思わないよう、こちらも自然に振る舞う。少しからかってやりたい気分でもあったけれど、これは彼女なりの誠意だ。そして、大きな成長でもあると思う。

「わかってる……」

「そう、ならいいけど。またあんなふうに怒鳴ったりしたらダメだよ。もっと優しくしてあげないと」

「うん……」

 奏ちゃんは、大きく1回だけ頷いた。やけに素直だ。いつもこうして素直でいれば可愛いのに。

「じゃあ、おやすみ」

「……おやすみ」 

 彼女は、少し間を空けて、おとなしくそう一言呟いた。なんだか素直すぎるのも、拍子抜けしてしまう。

 私は、彼女に軽く手を振ってからあまねくんと一緒に車に乗り込んだ。私達が去っていくまで、彼女は車庫の前に立ってこちらを見ているのをサイドミラーで確認した。

「……びっくりした。あの頑固な奏がちゃんとお礼を言うなんて」

 私と奏ちゃんのやり取りを黙って見守っていたあまねくんは、車を発進させてからそう言った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

夜の公園、誰かが喘いでる

ヘロディア
恋愛
塾の居残りに引っかかった主人公。 しかし、帰り道に近道をしたところ、夜の公園から喘ぎ声が聞こえてきて…

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

処理中です...