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再会
【61】
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「そんなこと言わないで。おばあちゃんが皆を待ってるって言ったのを受け入れたのは私だもの」
「母さん、もういいから。まどかさんも、誰が悪いとかじゃないよ。まどかさんのおかげでばあちゃんも意識戻ったんだしさ」
私とダリアさんとで、お互い自分を責め始めているところに、あまねくんはそう割って入る。彼の言うように、誰が悪いわけではない。たまたま悪い因子が重なっただけだ。
「そうね。きっと何でもなければおばあちゃんも病院から戻ってくるでしょうし。周、悪いけどもし連絡が来たらお父さん達のお迎えに行ってくれる?」
「いいよ。どこの病院に運ばれるかはわからないけど、多分律が連絡よこすと思うし。とりあえず、俺はまどかさん送ってくるよ」
あまねくんは、ダリアさんとそう会話し、私に「じゃあ行こうか」と声をかけた。
「まどかちゃん、本当にありがとう。また待ってるからね」
「はい。いつもどんなお茶が出てくるのか楽しみなんです。また遊びに来させていただきます」
「じゃあ、また美味しい紅茶を選んでおくわね。楽しみにしてる」
「私もです」
「それじゃ、気を付けてね」
ダリアさんは玄関まで送ってくれ、私はあまねくんと駐車場へ向かった。中庭を抜けて門構えを閉め、もう少しであまねくんの車というところで、後ろからカツカツと早足の音が聞こえる。
気になって振り返れば、ちょうど「待って!」と呼び止められた。小走りで追いかけてきたのは奏ちゃんだ。
てっきりに自室に籠ってしまったのだと思っていた。
「あのっ……おばあちゃんのこと……ありがとう」
彼女は、顔を背けながら、消え入りそうなほど小さな声で言った。
私は、驚いてすぐに声がでなかった。奏ちゃんがお礼を言った。あんなに私のことを嫌っていたのに。
彼女にとっては、私を追いかけてお礼を言うなんて嫌だっただろうに。それでもそれをしたのは、やはりおばあちゃんのことが大事だったからだろう。その気持ちが素直に嬉しかった。
「どういたしまして。おばあちゃんのこと、大事にしてあげてよ」
彼女がお礼なんて言わなきゃよかっただなんて思わないよう、こちらも自然に振る舞う。少しからかってやりたい気分でもあったけれど、これは彼女なりの誠意だ。そして、大きな成長でもあると思う。
「わかってる……」
「そう、ならいいけど。またあんなふうに怒鳴ったりしたらダメだよ。もっと優しくしてあげないと」
「うん……」
奏ちゃんは、大きく1回だけ頷いた。やけに素直だ。いつもこうして素直でいれば可愛いのに。
「じゃあ、おやすみ」
「……おやすみ」
彼女は、少し間を空けて、おとなしくそう一言呟いた。なんだか素直すぎるのも、拍子抜けしてしまう。
私は、彼女に軽く手を振ってからあまねくんと一緒に車に乗り込んだ。私達が去っていくまで、彼女は車庫の前に立ってこちらを見ているのをサイドミラーで確認した。
「……びっくりした。あの頑固な奏がちゃんとお礼を言うなんて」
私と奏ちゃんのやり取りを黙って見守っていたあまねくんは、車を発進させてからそう言った。
「母さん、もういいから。まどかさんも、誰が悪いとかじゃないよ。まどかさんのおかげでばあちゃんも意識戻ったんだしさ」
私とダリアさんとで、お互い自分を責め始めているところに、あまねくんはそう割って入る。彼の言うように、誰が悪いわけではない。たまたま悪い因子が重なっただけだ。
「そうね。きっと何でもなければおばあちゃんも病院から戻ってくるでしょうし。周、悪いけどもし連絡が来たらお父さん達のお迎えに行ってくれる?」
「いいよ。どこの病院に運ばれるかはわからないけど、多分律が連絡よこすと思うし。とりあえず、俺はまどかさん送ってくるよ」
あまねくんは、ダリアさんとそう会話し、私に「じゃあ行こうか」と声をかけた。
「まどかちゃん、本当にありがとう。また待ってるからね」
「はい。いつもどんなお茶が出てくるのか楽しみなんです。また遊びに来させていただきます」
「じゃあ、また美味しい紅茶を選んでおくわね。楽しみにしてる」
「私もです」
「それじゃ、気を付けてね」
ダリアさんは玄関まで送ってくれ、私はあまねくんと駐車場へ向かった。中庭を抜けて門構えを閉め、もう少しであまねくんの車というところで、後ろからカツカツと早足の音が聞こえる。
気になって振り返れば、ちょうど「待って!」と呼び止められた。小走りで追いかけてきたのは奏ちゃんだ。
てっきりに自室に籠ってしまったのだと思っていた。
「あのっ……おばあちゃんのこと……ありがとう」
彼女は、顔を背けながら、消え入りそうなほど小さな声で言った。
私は、驚いてすぐに声がでなかった。奏ちゃんがお礼を言った。あんなに私のことを嫌っていたのに。
彼女にとっては、私を追いかけてお礼を言うなんて嫌だっただろうに。それでもそれをしたのは、やはりおばあちゃんのことが大事だったからだろう。その気持ちが素直に嬉しかった。
「どういたしまして。おばあちゃんのこと、大事にしてあげてよ」
彼女がお礼なんて言わなきゃよかっただなんて思わないよう、こちらも自然に振る舞う。少しからかってやりたい気分でもあったけれど、これは彼女なりの誠意だ。そして、大きな成長でもあると思う。
「わかってる……」
「そう、ならいいけど。またあんなふうに怒鳴ったりしたらダメだよ。もっと優しくしてあげないと」
「うん……」
奏ちゃんは、大きく1回だけ頷いた。やけに素直だ。いつもこうして素直でいれば可愛いのに。
「じゃあ、おやすみ」
「……おやすみ」
彼女は、少し間を空けて、おとなしくそう一言呟いた。なんだか素直すぎるのも、拍子抜けしてしまう。
私は、彼女に軽く手を振ってからあまねくんと一緒に車に乗り込んだ。私達が去っていくまで、彼女は車庫の前に立ってこちらを見ているのをサイドミラーで確認した。
「……びっくりした。あの頑固な奏がちゃんとお礼を言うなんて」
私と奏ちゃんのやり取りを黙って見守っていたあまねくんは、車を発進させてからそう言った。
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