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再会
【43】
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「それで、まだ行かなきゃいけんだ?」
「うん。正確な回数はわからんけど、まだ必要だと思う」
「何だかめんどくさいね」
「まあね。でも、やらなきゃ臣くんは捕まらないし」
「やるしかないのか。仕事は?」
「もう辞めること言って、今少しだけ有給もらってるところ」
就職したばかりの頃は辞めたくて仕方なかったなぁなんて思い出す。自分には向いてないんじゃないかと挫折したこともあった。
先輩は意地悪だったし、利用者さんは言ったことをすぐに忘れてしまうし。1日にやらなければならないことは山ほどあるし、それなのに給料は安いし。
安易に辞めたいと言った私に、部長は全力で止めた。人手が足りないからだ。きつい、汚い、危険の3Kと呼ばれる職種の1つ。臭い、気持ち悪いなんかを入れたら、Kは3つどころではない気もするが。
私のようにすぐに根を上げて辞めてしまう人が多いから、いつまで経っても人手は増えない。それに交代で産休や育休に入るから、せっかく職員が入社しても代わりに誰かがいなくなる。女性が多い職場では、それが当たり前の世界だ。だからいつまで経っても楽にはならない。
そんな中で12年間も働いてきて、今回部長はあっさりと退職を認めてくれた。単なる辛くて辞めたいだけだった私を引き留めたが、トラブルを抱えた面倒な社員はもういらなかったのだ。
そう考えたら、新人の頃にはあんなにも辞めたかった仕事を辞められたはずなのに、突き放された気がして悲しかったのも否めない。
今になって思えば、あの時どうしてあんなに辞めたかったのか。思い返そうとしても、あの時と同じ程の苦痛や嫌悪感は思い出せなかった。
それは、私が今の仕事が好きだからだ。仕事というよりも環境かもしれない。自分が上に立ったことで、圧力をかけてくる人間はいなくなった。問題の多い新人はいるが。
後輩も立派に成長し、対等に話せるまでになった。皆が協力してくれるおかげで、1人だけが負担を抱えることはなくなった。千代さんに出会えたことで、命の大切さを改めて知った。
あまねくんがもう頑張らなくていい。そう言ってくれたから、前よりも柔軟な気持ちで仕事と向き合えた。
仕事内容がきついから仕事が楽しくないわけじゃない。仕事が楽だったら、仕事が好きになれるわけじゃない。
今まで出会えた利用者さんや職員がいるあの環境が好きだったのだ。結婚したら、辞めてデイサービスになんて考えていたけれど、実際にこのまま退職するのかと思うと寂しい気持ちでいっぱいになった。
「有給ちょっとだけってどういうこと? 何日残ってんの?」
「40日」
「はぁ!? そのうちのいくつくれるだ?」
茉紀は、声が裏返りそうな程前のめりで私に詰め寄る。私だって、残された有給は欲しい。しかし、そうもいかないのだから仕方ない。
「もらえて15日。全部使いたいけどさ、急遽辞めるわけだし職場に迷惑もかけるからあんまり図々しいことは言えないよね」
有給をもらえる権利はあるとしても、それを与えるのは会社の方であって、法律的に何日分与えなければならないという規定の最低ラインさえクリアしていれば、違反ではない。
有給なんて数だけあったってないようなものだ。
「うん。正確な回数はわからんけど、まだ必要だと思う」
「何だかめんどくさいね」
「まあね。でも、やらなきゃ臣くんは捕まらないし」
「やるしかないのか。仕事は?」
「もう辞めること言って、今少しだけ有給もらってるところ」
就職したばかりの頃は辞めたくて仕方なかったなぁなんて思い出す。自分には向いてないんじゃないかと挫折したこともあった。
先輩は意地悪だったし、利用者さんは言ったことをすぐに忘れてしまうし。1日にやらなければならないことは山ほどあるし、それなのに給料は安いし。
安易に辞めたいと言った私に、部長は全力で止めた。人手が足りないからだ。きつい、汚い、危険の3Kと呼ばれる職種の1つ。臭い、気持ち悪いなんかを入れたら、Kは3つどころではない気もするが。
私のようにすぐに根を上げて辞めてしまう人が多いから、いつまで経っても人手は増えない。それに交代で産休や育休に入るから、せっかく職員が入社しても代わりに誰かがいなくなる。女性が多い職場では、それが当たり前の世界だ。だからいつまで経っても楽にはならない。
そんな中で12年間も働いてきて、今回部長はあっさりと退職を認めてくれた。単なる辛くて辞めたいだけだった私を引き留めたが、トラブルを抱えた面倒な社員はもういらなかったのだ。
そう考えたら、新人の頃にはあんなにも辞めたかった仕事を辞められたはずなのに、突き放された気がして悲しかったのも否めない。
今になって思えば、あの時どうしてあんなに辞めたかったのか。思い返そうとしても、あの時と同じ程の苦痛や嫌悪感は思い出せなかった。
それは、私が今の仕事が好きだからだ。仕事というよりも環境かもしれない。自分が上に立ったことで、圧力をかけてくる人間はいなくなった。問題の多い新人はいるが。
後輩も立派に成長し、対等に話せるまでになった。皆が協力してくれるおかげで、1人だけが負担を抱えることはなくなった。千代さんに出会えたことで、命の大切さを改めて知った。
あまねくんがもう頑張らなくていい。そう言ってくれたから、前よりも柔軟な気持ちで仕事と向き合えた。
仕事内容がきついから仕事が楽しくないわけじゃない。仕事が楽だったら、仕事が好きになれるわけじゃない。
今まで出会えた利用者さんや職員がいるあの環境が好きだったのだ。結婚したら、辞めてデイサービスになんて考えていたけれど、実際にこのまま退職するのかと思うと寂しい気持ちでいっぱいになった。
「有給ちょっとだけってどういうこと? 何日残ってんの?」
「40日」
「はぁ!? そのうちのいくつくれるだ?」
茉紀は、声が裏返りそうな程前のめりで私に詰め寄る。私だって、残された有給は欲しい。しかし、そうもいかないのだから仕方ない。
「もらえて15日。全部使いたいけどさ、急遽辞めるわけだし職場に迷惑もかけるからあんまり図々しいことは言えないよね」
有給をもらえる権利はあるとしても、それを与えるのは会社の方であって、法律的に何日分与えなければならないという規定の最低ラインさえクリアしていれば、違反ではない。
有給なんて数だけあったってないようなものだ。
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