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再会
【29】
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頭がグラグラする……。というか、体も。
ふわふわどころの騒ぎではない。これはもう、完全に揺さぶられ……。
「……かさん! ……どかさん!」
聞き覚えのある声が……。
「まどかさん!」
鼓膜を刺激する大声に、ハッとする。何事……。
うっすら目を開ければ、照明の光が眩しくて、眉間に皺を寄せながら何とかこじ開ける。
「……あまねくん?」
「まどかさん! よかった……」
どうやら私の体を揺すっていたのは、あまねくんだったようだ。血相を変えて、私の体を抱き締めた。
「どうしたの? 何かあった?」
「何かあったじゃないでしょ! あんな事があったのに、鍵も開けっ放し、窓も開けっ放し。こんなところで伏せってるし、強盗にでも入られたのかと思って心配したんだよ!」
あまねくんにこんなふうに怒鳴られたのは初めてだ。目をつり上げて、怒っているのが伺える。
確かに段ボールに入れる途中で投げてしまったものがそこらに散乱しており、強盗にでも入られたかのように見えなくもない。
「……ごめん。荷造りしてたらとてつもない睡魔に襲われて……いつもの如く日向ぼっこをしていたら眠ってしまいました」
すみません。体を起こして、頭を下げる。
「いくら結城さんが勾留されてるからってあまりにも無用心だよ!」
「はい、すみません。おっしゃる通りです」
雅臣にも言われたけれど、玄関の鍵を閉めない癖は未だに治らないまま。だって、実家にいる時は小さい頃から開けっ放しだったもん。
ちょっとだけ目を閉じるつもりだったのに、あまねくんがいるということは、定時の17:30はとっくに過ぎているということだ。
あんなにぽかぽか陽気だった空は、おそらく暗くなっているのだろう。カーテンをピッタリと閉められていて、外の状況はわからなかった。
「本当にこれ以上、心配させないで。……寿命が縮まる」
そう言って彼は、私の肩に顔を埋めた。どうやら本気で心配させてしまったようだ。仮にも今日は守屋家に相談に行くというのに、私ってば……。
「あー! 今何時!?」
あまねくんを引き剥がし、彼の視線を捕らえる。
「……6時20分……頃」
彼は、目を細めて呟く。
「大変! 支度しないと!」
「いいよ、支度なんて。相談に行くだけだし、すっぴんで」
「そういうわけに行かないよ! まだお嫁に行ったわけでもあるまいし! それに、時間を割いて相談に乗ってくれるんだから、きちんとした格好で行かないと!」
「ねぇ……俺の話聞いてた? 支度よりも、自分の身を守ることが大事でしょ?」
彼は、再び不機嫌そうな表情でそう言った。怒っている。私には怒らないあまねくんが、とても怒っている。
「……はい。それは、深く反省しております……」
彼の両肩を掴んでいた手を腿の上に置き、2度目のお辞儀をする。
暗くなった部屋の中で、フローリングに倒れた状態で発見されれば、昨日の今日だし事件性を想像してもおかしくはない。更に窓も玄関の鍵も開いているのだから、誰かが入ってくる可能性だってなきにしも非ずだ。
ようやく覚めてきた頭で冷静に考えれば、あまねくんが怒るのも頷けた。
「心配かけて本当にごめんね? 昨日、家についた時には鍵かけたんだけど、今日引っ越し屋さんが段ボール持ってきてくれて、中に運んだら鍵かけるの忘れちゃったみたい……」
「窓は? 前にも言ったよね? 1階に住んでるんだから、不用意に窓開けたら危ないよって。身軽な人間なら入って来れるんだからね」
「うん……。風がね、気持ちよかったの。ほんのちょっと目を閉じるだけのつもりだったんだけど……」
「俺の仕事中に何かあったら、困るからさ……。お願いだから、もっと気を付けて」
あまねくんは、強張った表情を崩し、呆れたように溜め息をついた。
ふわふわどころの騒ぎではない。これはもう、完全に揺さぶられ……。
「……かさん! ……どかさん!」
聞き覚えのある声が……。
「まどかさん!」
鼓膜を刺激する大声に、ハッとする。何事……。
うっすら目を開ければ、照明の光が眩しくて、眉間に皺を寄せながら何とかこじ開ける。
「……あまねくん?」
「まどかさん! よかった……」
どうやら私の体を揺すっていたのは、あまねくんだったようだ。血相を変えて、私の体を抱き締めた。
「どうしたの? 何かあった?」
「何かあったじゃないでしょ! あんな事があったのに、鍵も開けっ放し、窓も開けっ放し。こんなところで伏せってるし、強盗にでも入られたのかと思って心配したんだよ!」
あまねくんにこんなふうに怒鳴られたのは初めてだ。目をつり上げて、怒っているのが伺える。
確かに段ボールに入れる途中で投げてしまったものがそこらに散乱しており、強盗にでも入られたかのように見えなくもない。
「……ごめん。荷造りしてたらとてつもない睡魔に襲われて……いつもの如く日向ぼっこをしていたら眠ってしまいました」
すみません。体を起こして、頭を下げる。
「いくら結城さんが勾留されてるからってあまりにも無用心だよ!」
「はい、すみません。おっしゃる通りです」
雅臣にも言われたけれど、玄関の鍵を閉めない癖は未だに治らないまま。だって、実家にいる時は小さい頃から開けっ放しだったもん。
ちょっとだけ目を閉じるつもりだったのに、あまねくんがいるということは、定時の17:30はとっくに過ぎているということだ。
あんなにぽかぽか陽気だった空は、おそらく暗くなっているのだろう。カーテンをピッタリと閉められていて、外の状況はわからなかった。
「本当にこれ以上、心配させないで。……寿命が縮まる」
そう言って彼は、私の肩に顔を埋めた。どうやら本気で心配させてしまったようだ。仮にも今日は守屋家に相談に行くというのに、私ってば……。
「あー! 今何時!?」
あまねくんを引き剥がし、彼の視線を捕らえる。
「……6時20分……頃」
彼は、目を細めて呟く。
「大変! 支度しないと!」
「いいよ、支度なんて。相談に行くだけだし、すっぴんで」
「そういうわけに行かないよ! まだお嫁に行ったわけでもあるまいし! それに、時間を割いて相談に乗ってくれるんだから、きちんとした格好で行かないと!」
「ねぇ……俺の話聞いてた? 支度よりも、自分の身を守ることが大事でしょ?」
彼は、再び不機嫌そうな表情でそう言った。怒っている。私には怒らないあまねくんが、とても怒っている。
「……はい。それは、深く反省しております……」
彼の両肩を掴んでいた手を腿の上に置き、2度目のお辞儀をする。
暗くなった部屋の中で、フローリングに倒れた状態で発見されれば、昨日の今日だし事件性を想像してもおかしくはない。更に窓も玄関の鍵も開いているのだから、誰かが入ってくる可能性だってなきにしも非ずだ。
ようやく覚めてきた頭で冷静に考えれば、あまねくんが怒るのも頷けた。
「心配かけて本当にごめんね? 昨日、家についた時には鍵かけたんだけど、今日引っ越し屋さんが段ボール持ってきてくれて、中に運んだら鍵かけるの忘れちゃったみたい……」
「窓は? 前にも言ったよね? 1階に住んでるんだから、不用意に窓開けたら危ないよって。身軽な人間なら入って来れるんだからね」
「うん……。風がね、気持ちよかったの。ほんのちょっと目を閉じるだけのつもりだったんだけど……」
「俺の仕事中に何かあったら、困るからさ……。お願いだから、もっと気を付けて」
あまねくんは、強張った表情を崩し、呆れたように溜め息をついた。
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