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再会

【25】

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「それはお父さんが悪いと思うわ。でもね、お父さんが職場に迷惑をかけられないって言ってたのも本心だと思うの」

「それはわかるよ。ずっと勤めてきたところだし、教頭先生になれるかもなんて話もでてるんでしょ」

「うん……。まどかはあんまり覚えてないかもしれないけど、熊本のおじいちゃんわかるでしょ?」

「うん」

 熊本のおじいちゃんと言えば、父方の祖父だ。父のお父さんにあたる人。
 遠方だから、ほとんど会ったことはなかったし、とっくに亡くなっている。

「お父さんね、おじいちゃんのことが大嫌いで、それで熊本を飛び出て東京の大学に行ったの」

「仲が悪かったのは知ってる」

「うん。おじいちゃんは働かない人でね、苦労したみたい。お酒を飲むと手がつけられなくて、家計を支えようと必死だったおばあちゃんにも手を上げてたみたいだし……」

「は!? そんなの聞いたことないけど」

「言わなかったのよ。体裁悪いし……。それで、お父さんのおうちはお金がなかったから、高校も特待で安く入学したらしいの。高校に行きながらバイトをしてお金を貯めて、自分で大学に行ったのよ」

「……そうだったんだ」

 父にそんな過去があっただなんて想像もしていなかった。てっきり、親のお金で大学まで出させてもらって、好きで上京したのだと思っていたから。
 それどころか、そこまでしてもらったのに、全く実家に帰らないなんて親不孝だとすら思っていた。
 そんな話を聞いたら、父が実家に顔を出さない理由も頷ける。

「お父さん、ああいう男にだけはなりたくないって口癖のようにいつも言ってたの。男は、稼いで女を守るものだって。苦労して、ようやくの思いで大学を卒業して今の高校に就職できたから、手放したくない気持ちは大きいと思う」

「そうだね……。ちょっと、お父さんのこと見損なったって思ったけど、そんな話聞いたら頭ごなしに責められないし」

「せめて子供全員が成人するまではって離婚せずにいたおばあちゃんのことも、子供を守るのが親の役目だけれど、まずは自分の身を守るのが先だって言ってた。どうせ働かないなら、一緒にいなくてもよかったのにって。だからお父さん、人一倍仕事に対して厳格だし、まどかにもそういう辛い思いはさせたくないのよ」

「そう……」

「だから、まどかにも大学に行けなんて強制しなかったでしょ? 色んな選択肢から、自分で選択して、納得して幸せになれるようにって言ったのだってお父さんなんだから」

「うん」

 確かに、テスト前には勉強しろと言われたし、将来はちゃんと働けとも言われた。
 男尊女卑の時代に生まれた人間にしては珍しいとも思ったが、祖父に暴力を振るわれてもじっと耐えることしかできなかった祖母のようにしたくはなかったのだろう。
 姉も、私も自立できるよう、父なりに考えていたのかと思うと胸が熱くなった。

「だから、わかって欲しいのは、お父さんはあんなこと言ってるけど、本当に困った時はちゃんと味方になってくれる気はあるってこと」

「わかったよ」

「でもね、きっとあまねくんのご家族に弁護士さんがいるって聞いて、ちょっと拗ねてると思うの」

 私には全くわからないが、父の心境を全て理解している様子の母に脱帽する。
 夫婦って凄いなと思う一方で、こんな父のもとに嫁いだ母も大変だと気の毒に思った。
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