上 下
114 / 289
再会

【14】

しおりを挟む
 バタバタと足音を立てて勢いよく現れた愛しの彼。額に大粒の汗を作って、息は乱れている。
 もしかして、走ってきてくれたの?
 彼の顔を見て、痛みも恐怖もなくなった。
 あまねくんだ……。

 ソファーの上に組敷かれている私の姿を目の当たりにし、あまねくんは今まで見たことのない眼光を放った。

「誰かと思ったら、あまねくんじゃーん。おい、守屋。どうなって」

 おどけた様子で上半身を上げた雅臣に、早足で近付くと、あまねくんは彼の首根っこを掴んで、勢いよく後ろに引いた。
 私にのしかかっていた重力は、一気に解き放たれて、体が軽くなる。

「触んな。ストーカー野郎が」

 あまねくんの声じゃないような気がした。「まどかさん」そう私の名前を呼ぶいつもの彼は、甘くて、弾んでいて、子犬のように可愛い。それなのに、そんな彼は最初から存在していなかったかのように、私の目に映る彼は別人だった。
 憤慨のオーラが目に見えるかのように、高い位置からフローリングの床に叩き付けられた雅臣を見下ろしている。

「いってぇ……。お前、何すんだよ」

「それはこっちの台詞だろ。お前こそ他人家《ひとんち》に勝手に上がり込んで何してんだよ! 犯罪者のくせに、汚ねぇ手であの人に触れんな」

 普段のあまねくんからは、想像もつかない雑な言葉遣い。彼は上品で、優しくて、言葉選びが上手なコミュニケーション上級者。
 そんなイメージだったのに、こんなにもはっきりと怒りを表に出して、雅臣に辛辣な言葉をぶつける。

「ほー。言うねぇ。そもそも他人の女奪ったのはどっちだ? お前こそ味方のふりして俺のこと嵌めやがって。写真売り付けたのもお前だろ」

「俺は、あんたの味方になったつもりなんかない。最初からまどかさんを守るつもりでいたし、写真だって使い方を間違っただなんて思ってない。婚約者がいながら、他の女性に手を出してたあんたが悪いんだろ。俺が嵌めたわけじゃない。世間があんたにした評価だよ」

 あまねくんは、実に流暢に話す。彼が言っていることは、事実であり正論だ。
 誰がどうみたって、雅臣が悪い。

「お前らが写真を処分してさえいれば、少なくとも議員にはバレずに済んだんだよ」

「バレなくても、捕まったんだから結局は破談だろ」

「それでもあのバカ女から慰謝料請求されることもなかったし、議員からの取り立てだってなかったはずだ。まどかだけは許して俺のもとに置いてやろうかと思ってたけど、お前と関わってるなら話は別だな」

「……お前、自分の立場わかってんのか? ストーカー行為に住居侵入。……強姦未遂」

 あまねくんはそう言ってこちらを見る。体を起こして、身なりを整えていた私の顔を見て、彼は目を見開いた。

「お前、殴ったのか!?」

「大袈裟だな。ちょっとひっぱたいただけだよ」

 雅臣は、手を首の後ろに回して掴むと、首を左右に倒して、パキパキと関節を鳴らした。フローリングの床に胡座をかいて、めんどくさそうに顔をしかめている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

初めてなら、本気で喘がせてあげる

ヘロディア
恋愛
美しい彼女の初めてを奪うことになった主人公。 初めての体験に喘いでいく彼女をみて興奮が抑えられず…

恋人の水着は想像以上に刺激的だった

ヘロディア
恋愛
プールにデートに行くことになった主人公と恋人。 恋人の水着が刺激的すぎた主人公は…

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

君の浮気にはエロいお仕置きで済ませてあげるよ

サドラ
恋愛
浮気された主人公。主人公の彼女は学校の先輩と浮気したのだ。許せない主人公は、彼女にお仕置きすることを思いつく。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

処理中です...