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再会
【13】
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「調子に乗るなよ、クソアマが。少しでも痛くないようにと思って配慮してやればこれだ。黙って俺の言うこと聞いとけ」
彼は低く冷たい声でそう言った。
その声を聞いて、初めて自分が殴られたのだと理解できた。未だに耳は何かが反響している。左頬はずんっと重たい鈍痛が続いていて、頭がぼーっとする。
彼が、私の下半身に手を伸ばす。付き合っていた頃の彼のセックスを思い出す。触れられても何の感情も湧かなくて、気持ちよくはなくて、必死に耐えてただ終わるのを待った。あまり濡れなくても、無理に押し進めて、ギチギチと擦れるのが痛かった。
あんなことをまた無理矢理されるのかと思ったら、自然と涙が溢れた。
もうあんな思いはしたくない。この人には触れられたくない。
殴られながら、更に乱暴にされるだなんて、そんな酷い扱いは受けたくない。
「……お願い、やめて……」
「……まどか? 泣いてるの? ごめん、ごめん。そんなに怖い思いさせるつもりはなかったんだよ。まどかが抵抗するから……」
雅臣は、焦ったように私の顔を覗き込み、下腹部に伸ばした手で私の頭を撫でた。
こんな奴の前で泣きたくなんかなかった。浮気された時も、別れた時も、泣きそうになるのを堪えて耐えた。
こんな奴に弱味なんか見せまいと、いつだって弱音を吐いたり、甘えたりしなかったのに。
悔しい……。
私にもっと力があったら、自分で振りほどけるのに。もう1度蹴り上げて、殴り返して、家を飛び出せるのに。
今の私には、泣くことでしか抵抗ができない。なんて無力なんだろう。
「……まどか。優しくするから。ね? 泣かないで」
そう言って、今度は殴った私の頬を撫でる。触れられると、痛みが増して、口の中にも刺激が伝わる。
「いった……」
「あ……口の中、切れてる。ごめんね、痛かったね」
彼は、私の下唇を親指で下げ、歯列を確認しているようだった。口の中いっぱいに広がる味からして、出血しているのだろう。
「もう痛くしないから。ゆっくりするから、泣かないの」
もう1度、私の頭を撫で、そのまま私の髪に唇を押し当てる。再び、ゾクゾクと鳥肌が立つ。これ以上近付かないで……。
〔ピンポーン〕
ようやく鳴ったチャイムの音。私がどれだけ彼を待ちわびていたか。
よかった。これで、あまねくんに助けてもらえる。
そう思ったのも束の間、彼はインターフォンに視線を移し、ドア前に立っているあまねくんの姿を捕らえた。
「……アイツ。……ねぇ、まどか。結婚するってまさかアイツと?」
「……」
猫なで声で私の機嫌をとろうとしていた彼は、目を大きく見開いてギョロっとこちらに視線を移した。私に確認しようと発した声は、今までで1番冷徹な声だった。
もしも今、雅臣が玄関の鍵を閉めに行ってしまったら、万事休すだ。
私はもう逃れられない。
「……2人で俺を嵌めたのか?」
「……違う」
「だったら何でアイツがここへ来るんだよ」
何て答えていいかわからず、口をつぐんでいると、ガチャッと音がして、同時に「まどかさん!!」と大きなあまねくんの声がした。
「……鍵、閉めない癖まだ治ってないのかよ」
彼は大きく溜め息をついて、顔を歪めて私を見下ろした。面倒なことが起こった時にする顔だ。
彼は低く冷たい声でそう言った。
その声を聞いて、初めて自分が殴られたのだと理解できた。未だに耳は何かが反響している。左頬はずんっと重たい鈍痛が続いていて、頭がぼーっとする。
彼が、私の下半身に手を伸ばす。付き合っていた頃の彼のセックスを思い出す。触れられても何の感情も湧かなくて、気持ちよくはなくて、必死に耐えてただ終わるのを待った。あまり濡れなくても、無理に押し進めて、ギチギチと擦れるのが痛かった。
あんなことをまた無理矢理されるのかと思ったら、自然と涙が溢れた。
もうあんな思いはしたくない。この人には触れられたくない。
殴られながら、更に乱暴にされるだなんて、そんな酷い扱いは受けたくない。
「……お願い、やめて……」
「……まどか? 泣いてるの? ごめん、ごめん。そんなに怖い思いさせるつもりはなかったんだよ。まどかが抵抗するから……」
雅臣は、焦ったように私の顔を覗き込み、下腹部に伸ばした手で私の頭を撫でた。
こんな奴の前で泣きたくなんかなかった。浮気された時も、別れた時も、泣きそうになるのを堪えて耐えた。
こんな奴に弱味なんか見せまいと、いつだって弱音を吐いたり、甘えたりしなかったのに。
悔しい……。
私にもっと力があったら、自分で振りほどけるのに。もう1度蹴り上げて、殴り返して、家を飛び出せるのに。
今の私には、泣くことでしか抵抗ができない。なんて無力なんだろう。
「……まどか。優しくするから。ね? 泣かないで」
そう言って、今度は殴った私の頬を撫でる。触れられると、痛みが増して、口の中にも刺激が伝わる。
「いった……」
「あ……口の中、切れてる。ごめんね、痛かったね」
彼は、私の下唇を親指で下げ、歯列を確認しているようだった。口の中いっぱいに広がる味からして、出血しているのだろう。
「もう痛くしないから。ゆっくりするから、泣かないの」
もう1度、私の頭を撫で、そのまま私の髪に唇を押し当てる。再び、ゾクゾクと鳥肌が立つ。これ以上近付かないで……。
〔ピンポーン〕
ようやく鳴ったチャイムの音。私がどれだけ彼を待ちわびていたか。
よかった。これで、あまねくんに助けてもらえる。
そう思ったのも束の間、彼はインターフォンに視線を移し、ドア前に立っているあまねくんの姿を捕らえた。
「……アイツ。……ねぇ、まどか。結婚するってまさかアイツと?」
「……」
猫なで声で私の機嫌をとろうとしていた彼は、目を大きく見開いてギョロっとこちらに視線を移した。私に確認しようと発した声は、今までで1番冷徹な声だった。
もしも今、雅臣が玄関の鍵を閉めに行ってしまったら、万事休すだ。
私はもう逃れられない。
「……2人で俺を嵌めたのか?」
「……違う」
「だったら何でアイツがここへ来るんだよ」
何て答えていいかわからず、口をつぐんでいると、ガチャッと音がして、同時に「まどかさん!!」と大きなあまねくんの声がした。
「……鍵、閉めない癖まだ治ってないのかよ」
彼は大きく溜め息をついて、顔を歪めて私を見下ろした。面倒なことが起こった時にする顔だ。
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