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ラポール形成

【42】

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 門構えを律くんが開けると、遠く続く玄関前に人影が見える。

「ほら、噂をすれば」

 律くんがそう言うものだから、目を凝らして見る。その姿はあまねくんだった。
 こちらに気付いて向こうから駆けつけてくる。

「まどかさん!」

「あまねくん、お疲れ様」

「うん……大丈夫?  寒くない?」

「ちょっと……」

「律、まどかさんが風邪ひいたらどうすんの?  上着くらい貸してあげてよ」

 気付かなかったけれど、律くんはしっかりと前開きのパーカーを羽織っている。

「……別に俺はいいけど、俺の服を着てる彼女を見てなんとも思わない?」

「……」

「俺なりの配慮だよ」

 彼はそう言うけれど、本当だろうか。
 彼もそこまで気が回らなかっただけのような気がする。黙ったあまねくんの横を素通りする律くん。

 あまねくんは、自分の上着を脱いで私の肩にかけてくれた。ゆっくりと歩き出す彼と一緒に玄関に向かう。

「ありがとう。奏ちゃん帰って来た?」

「うん。あんまり元気なかったけど」

「おばあちゃんに謝ってくれたかな?」

「一応ね。ばあちゃん耳遠いから多分聞こえてないけど。ボソボソって呟いてそのまま部屋に閉じ籠ったよ。追いかけてくれたみたいでありがとうね」

「ううん。ちゃんと帰って来たならよかった」

「まどかさんがばあちゃんに謝るように言ってくれたの?」

「うん、ごめん。ちょっと怒っちゃった」

「いいよ、ありがとう。俺からもちゃんと言っとく」

 冷えた体を温めるかのように私の肩を抱くあまねくん。彼の体温を感じて温かい。
 彼を実感したら、先程の律くんからのキスを思い出し、心苦しくなる。
 やましい気持ちはないし、律くんも深い意味はないと言っていたけれど、気にしないわけにはいかない。

 律くんとの距離も縮まり、先に玄関のドアを開けた律くんは、こちらを振り返り「周、そういえばさっき俺、彼女にキスしちゃった」そう言い残して玄関のドアを閉めた。

 え?  えぇ!?  
 言い逃げ!?  
 このタイミングで……。

 顔がひきつる中、ゆっくりあまねくんの顔を見上げる。彼は、無表情で「どういうこと?」と私に尋ねた。

 律くん、カムバック!!
 確かにあまねくんに黙っているのは心苦しいと思った。だがしかし!  このタイミングでのカミングアウトは如何なものか。
 当の本人はさっさと家の中に入ってしまっている。

「あまねくん、これには訳がある」

「どんな?  聞くよ」

「意味はないらしい」

「全然わかんない」

「私にもよくわかんないんだけど……」

「どうしたらそうなるの?」

「あの……私が律くんを平手打ちしまして……」

「え?」

 彼は動きを止める。全く状況が読めない彼。唖然とした表情を浮かべている。

「実は、かくかくしかじか……の事情がありまして」

「流れはわかったけど、何でキスするの?」

「それは、律くんに聞いてもらえると……」

「そう……」

 彼は、目を細めて玄関のドアを見つめた。
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