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ラポール形成
【41】
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「そんなことがあったから、年上で周のことを好きだという女性は皆嫌いなんです」
「あ……そういうこと」
「だからあなたのせいじゃない。ただ、俺達は皆その事情を知っているから、あれ以上奏のことも強く言えなくて……。すみません。多分周は、自分からこの話をあなたに、したがらないと思うし」
「そっか……。奏ちゃんも辛い思いしたんだもんね。何も知らなかったとはいえ、ちょっときつく言い過ぎだかな?」
「いえ。あなたから言ってくれる分には、いい刺激になると思います。さっきも珍しく色々話してたし」
「……どっから聞いてたの?」
いつの間にか横並びになっており、歩幅を合わせてゆっくり歩く。
「多分、ほとんど全部です」
「え!?」
「もう少し早く声をかけようかと思ったけど、タイミングがわからなくて盗み聞きのようになってしまいました」
「そっか……」
「何となく、あなたになら心を開きそうな気がします」
「え……?」
「俺達じゃ無理だったから。奏が1番辛い時に、俺も周も自分のことで精一杯で気にかけてやれなかったから」
「そんなことないと思うけどな……。奏ちゃんは、律くんのこともあまねくんのことも大好きだと思うよ」
「……そうですかね」
「そうじゃなきゃ、今日みたいに突然帰ってきたりしないって。きっと皆に会いたかったんだよ」
住宅街に入ると、街灯の数が少し増えた気がする。LEDの白い明かりが眩しい程だった。
「……まどかさん」
不意に名前を呼ばれた。
律くんに名前を呼ばれたのは初めてな気がして、足を止めて顔を上げた。
一瞬、頬に柔らかいものが触れた。
「え? は!?」
「深い意味はないです。やっぱり、叩かれたのはわりに合わない気がして」
彼は、表情1つ変えずに飄々と歩き始める。
え? どういうこと?
今、頬にキスされたよね?
深い意味はないって……。意味がないのはそれはそれで……。
どういうこと?
「ねぇ、今の何!?」
「だから、意味はないですって」
「いや、困る!」
「周に黙ってるのが心苦しいなら、言ってくれてもいいですよ」
「いや……それは……」
彼、泣いちゃうし。
「だって、殴り返すわけにいかないでしょ?」
「そりゃそうだけど……だからって……」
困ったな……。
深い意味なんかなくても、こんなことをされてしまったら変な罪悪感が込み上げる。
「外国じゃ、挨拶だし。うちの母は、未だにしてきますよ?」
「まぁ……ダリアさんがするのはかまわないけど」
「じゃあ、同じじゃん」
「同じじゃないよ!」
「ほら、もう着きますよ。あなたが動揺すると、俺が周に疑われるからしっかりしてて下さい」
「誰のせいだと思って……」
奏ちゃんといい、律くんといい勝手な言い分だ。
本当に気にしている素振りのない彼の横顔を見て、深く深くため息をついた。
「あ……そういうこと」
「だからあなたのせいじゃない。ただ、俺達は皆その事情を知っているから、あれ以上奏のことも強く言えなくて……。すみません。多分周は、自分からこの話をあなたに、したがらないと思うし」
「そっか……。奏ちゃんも辛い思いしたんだもんね。何も知らなかったとはいえ、ちょっときつく言い過ぎだかな?」
「いえ。あなたから言ってくれる分には、いい刺激になると思います。さっきも珍しく色々話してたし」
「……どっから聞いてたの?」
いつの間にか横並びになっており、歩幅を合わせてゆっくり歩く。
「多分、ほとんど全部です」
「え!?」
「もう少し早く声をかけようかと思ったけど、タイミングがわからなくて盗み聞きのようになってしまいました」
「そっか……」
「何となく、あなたになら心を開きそうな気がします」
「え……?」
「俺達じゃ無理だったから。奏が1番辛い時に、俺も周も自分のことで精一杯で気にかけてやれなかったから」
「そんなことないと思うけどな……。奏ちゃんは、律くんのこともあまねくんのことも大好きだと思うよ」
「……そうですかね」
「そうじゃなきゃ、今日みたいに突然帰ってきたりしないって。きっと皆に会いたかったんだよ」
住宅街に入ると、街灯の数が少し増えた気がする。LEDの白い明かりが眩しい程だった。
「……まどかさん」
不意に名前を呼ばれた。
律くんに名前を呼ばれたのは初めてな気がして、足を止めて顔を上げた。
一瞬、頬に柔らかいものが触れた。
「え? は!?」
「深い意味はないです。やっぱり、叩かれたのはわりに合わない気がして」
彼は、表情1つ変えずに飄々と歩き始める。
え? どういうこと?
今、頬にキスされたよね?
深い意味はないって……。意味がないのはそれはそれで……。
どういうこと?
「ねぇ、今の何!?」
「だから、意味はないですって」
「いや、困る!」
「周に黙ってるのが心苦しいなら、言ってくれてもいいですよ」
「いや……それは……」
彼、泣いちゃうし。
「だって、殴り返すわけにいかないでしょ?」
「そりゃそうだけど……だからって……」
困ったな……。
深い意味なんかなくても、こんなことをされてしまったら変な罪悪感が込み上げる。
「外国じゃ、挨拶だし。うちの母は、未だにしてきますよ?」
「まぁ……ダリアさんがするのはかまわないけど」
「じゃあ、同じじゃん」
「同じじゃないよ!」
「ほら、もう着きますよ。あなたが動揺すると、俺が周に疑われるからしっかりしてて下さい」
「誰のせいだと思って……」
奏ちゃんといい、律くんといい勝手な言い分だ。
本当に気にしている素振りのない彼の横顔を見て、深く深くため息をついた。
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