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ラポール形成
【3】
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千代さんとは12年という年月を共に過ごし、お互いに信頼関係が築けていたのだと思う。
あまねくんと出会ったことで、彼の母親、そして祖母と新たな関係を築く機会が訪れた。
妹さんのことはそれっきりになってしまったけれど、こうして彼の母親が歓迎してくれているのだから新たなラポール形成に力を入れようと奮闘するのだった。
「こんにちは。おじゃまします」
あまねくんの祖母に声をかけるとにっこりと笑って「いらっしゃい、ようこそきてくれました」と言ってくれた。促されて隣に腰掛けた。
「あなた、お名前は?」
「一まどかです」
耳が遠いようなので、耳元で話す。
「にのまえ? 変わった苗字ねぇ」
「もともと父が熊本だったみたいなので、そちらにはある苗字らしいですよ」
「そうですか、そうですか」
にこにこしながら緑茶を飲むおばあさん。
「お義母さん、まどかちゃん。ケーキを焼いたのよ」
そう言ってあまねくんの母親は、トレーに2つの皿を乗せてやってきた。
目の前に置かれたケーキは、蒸しケーキのように見えた。
「カボチャのケーキなの。よかったら召し上がって」
ふんわり微笑む綺麗な彼女に一瞬見とれて、その後すぐにケーキに目を移した。鮮やかなオレンジがかった黄色が綺麗だった。
「美味しそうだねぇ。ダリアちゃん、ありがとうね」
「はいはい。お義母さんも、温かいうちに食べてくださいね」
あまねくんの祖母と母はほのぼのとしていて良好な関係のように見えた。
「まどかちゃん、遠慮しなくていいのよ。食べて」
促され、おばあさんと一緒にケーキに手をつけた。甘さは控えめで、ほんのり甘い。
「美味しいです……」
優しい味がした。カボチャの風味が鼻を抜けて、カボチャ本来の甘さのように感じる。
「お義母さんね、糖尿病があるからあまり甘いものはダメなの。このケーキもほとんどお砂糖を使ってないのよ」
彼女の言葉を聞いて納得した。とっても甘いお菓子も好きだけれど、こういった素材の味がわかるお菓子も新鮮で感激した。
彼女は、トレーを置きに行くと、私の正面に座った。
「まどかちゃん、この間は本当に奏が失礼なことを言ってごめんなさいね」
「いえ、気にしないで下さい。私も、奏さんと仲良くできるように頑張ります」
「本当に優しい子なのね。昔はあんな感じじゃなかったんだけどな……。東京生活が長くなってきて、たまに家に帰ってくると皆で楽しくお話もしてたんだけど、ある日からあまり家に帰ってこなくなったのよ。何があったのか聞いても答えないし……今頃反抗期なのかしらね」
あまねくんの妹さんに対しては、母親も悩んでいるようだった。
それでもあまねくんは、兄弟仲はいいと言っていたけれど、彼も何も知らないのだろうか。
「あまねくんから、兄弟の仲は凄くいいって聞きましたよ」
「そうね……。奏が東京に行きたいって言っていた時も周は応援してくれていたし、特に奏は周にベッタリだったから。余計にちょっとヤキモチ妬いたのかしらね」
「あまねくん、優しいですもんね」
「そうね。あの子の優しさはわかりやすいから。律はちょっと気難しいでしょ?」
「でも、あまねくんは律くんのこと好きみたいですよ」
気難しいに対しては否定もできなかった。それでも律くんはあまねくんを庇うような発言もみられたし、あまねくんも律くんはいいところがあると嬉しそうに話していた。
あまねくんと出会ったことで、彼の母親、そして祖母と新たな関係を築く機会が訪れた。
妹さんのことはそれっきりになってしまったけれど、こうして彼の母親が歓迎してくれているのだから新たなラポール形成に力を入れようと奮闘するのだった。
「こんにちは。おじゃまします」
あまねくんの祖母に声をかけるとにっこりと笑って「いらっしゃい、ようこそきてくれました」と言ってくれた。促されて隣に腰掛けた。
「あなた、お名前は?」
「一まどかです」
耳が遠いようなので、耳元で話す。
「にのまえ? 変わった苗字ねぇ」
「もともと父が熊本だったみたいなので、そちらにはある苗字らしいですよ」
「そうですか、そうですか」
にこにこしながら緑茶を飲むおばあさん。
「お義母さん、まどかちゃん。ケーキを焼いたのよ」
そう言ってあまねくんの母親は、トレーに2つの皿を乗せてやってきた。
目の前に置かれたケーキは、蒸しケーキのように見えた。
「カボチャのケーキなの。よかったら召し上がって」
ふんわり微笑む綺麗な彼女に一瞬見とれて、その後すぐにケーキに目を移した。鮮やかなオレンジがかった黄色が綺麗だった。
「美味しそうだねぇ。ダリアちゃん、ありがとうね」
「はいはい。お義母さんも、温かいうちに食べてくださいね」
あまねくんの祖母と母はほのぼのとしていて良好な関係のように見えた。
「まどかちゃん、遠慮しなくていいのよ。食べて」
促され、おばあさんと一緒にケーキに手をつけた。甘さは控えめで、ほんのり甘い。
「美味しいです……」
優しい味がした。カボチャの風味が鼻を抜けて、カボチャ本来の甘さのように感じる。
「お義母さんね、糖尿病があるからあまり甘いものはダメなの。このケーキもほとんどお砂糖を使ってないのよ」
彼女の言葉を聞いて納得した。とっても甘いお菓子も好きだけれど、こういった素材の味がわかるお菓子も新鮮で感激した。
彼女は、トレーを置きに行くと、私の正面に座った。
「まどかちゃん、この間は本当に奏が失礼なことを言ってごめんなさいね」
「いえ、気にしないで下さい。私も、奏さんと仲良くできるように頑張ります」
「本当に優しい子なのね。昔はあんな感じじゃなかったんだけどな……。東京生活が長くなってきて、たまに家に帰ってくると皆で楽しくお話もしてたんだけど、ある日からあまり家に帰ってこなくなったのよ。何があったのか聞いても答えないし……今頃反抗期なのかしらね」
あまねくんの妹さんに対しては、母親も悩んでいるようだった。
それでもあまねくんは、兄弟仲はいいと言っていたけれど、彼も何も知らないのだろうか。
「あまねくんから、兄弟の仲は凄くいいって聞きましたよ」
「そうね……。奏が東京に行きたいって言っていた時も周は応援してくれていたし、特に奏は周にベッタリだったから。余計にちょっとヤキモチ妬いたのかしらね」
「あまねくん、優しいですもんね」
「そうね。あの子の優しさはわかりやすいから。律はちょっと気難しいでしょ?」
「でも、あまねくんは律くんのこと好きみたいですよ」
気難しいに対しては否定もできなかった。それでも律くんはあまねくんを庇うような発言もみられたし、あまねくんも律くんはいいところがあると嬉しそうに話していた。
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