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愛情

【45】

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 仕事をしていても気になるのは千代さんの事ばかり。
 周りの職員も私の姿を見つけては「千代さん大変でしたね」と声をかけてくれる。近藤さんに「千代さん待ってると思うからお見舞いいってあげて」と言われた。

 今日はあまねくんが来ない日だし、帰りに病院に寄っていく時間はある。
 今日行かないとなんとなくもう会えない気がした。今までは発熱しても骨折しても何とか乗り越えてきた千代さん。その度に心配して、元気になってくると一緒に笑いあった。
 今回だって何だかんだこのまま回復して、すぐに戻ってくるかもしれない。そうは思うものの、悪い予感は消えなかった。

 仕事が終ると、申し送りもそこそこに皆に断りを入れて千代さんのいる病院に向かった。
 病棟だけは聞いていたため、ナースステーションで声をかける。忙しい病院では、施設の職員が声をかけて、仕事の手を止めてしまうことを嫌がるのか、看護師の表情は堅かった。

「家族ですか?」

「いえ、すずらんの職員です」

「今、家族しか入れないんですよ。帰ってもらうか、家族がいいって言ってくれれば会うこともできるかもしれないですけどね」

 金色に近い短髪で小太りの女性。40代半ばくらいだろうか。
 愛想のない看護師だった。忙しいのは施設だって一緒だ。

「待っているので、家族に確認してもらえますか?」

「あー……じゃあ、ちょっとお待ち下さい」

 顔を歪める彼女を見て、今の私はすごく邪魔なのだろうと察する。
 廊下をバタバタと色んな看護師が走り回っている。もしかしたら急患がいるのかもしれない。

 やはり忙しいのか、それから30分以上待たされても、その看護師がやってくることはなかった。

 少しずつ不安と苛立ちとが混在した感情が込み上げてくる。一目会わせてくれればいいのだ。
 治療中でも、たくさんの管が繋がっていても、千代さんの顔を1度見せてくれたら、会えてよかったと思えたらそれだけでいい。

 そう思うのに、それすらも許して貰えないような緊迫した状態が続く。
 ぼーっとナースステーションの前で待つ私を何人もの看護師が怪訝そうにこちらを見やり、何人かの面会者が視線も合わせず通りすぎ、決して居心地のいいものではなかった。

 こんなに待たされるなら帰ろうかななんて思うのだけれど、家族しか入れないという言葉が、それだけ状態の重さを語っているようでその場から動くことも気が引けた。

 もうすぐ1時間が経とうとしている。そんな時分に「お待たせしました。家族がいいと言ってくれたのでどうぞ」とあの看護師に声をかけられた。
 文句も言わず、催促もせずにおとなしく待っていたからであろうか、少しだけ彼女の表情は柔らかくなっていた。
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