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愛情
【28】
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体に鞭を打ってようやく帰宅し、いつものようにシャワーを浴びて、意識を手放すように眠る。夜勤明けって何でこんなにしんどいんだろう。考えるよりも先に眠りについた。
目覚ましの音で飛び起きる。綺麗目の格好をしておいてだなんていうものだから、着ていく服も迷ってしまう。
ワンピースが楽でいいかと思いながら、いくつかあるうちの黒いワンピースを選んだ。
Vネックの襟に映えるよう、小振りのネックレスをつけて、靴はあまねくんに貰ったピンヒールにした。
この靴を履いて何度か彼とデートをしたっけと思い出す。
髪を巻いて、エレガント風に仕上げた。ピアスも靴に合わせて同じ色調のものを選ぶ。夜だから化粧は少し濃い方がいいかもしれない。そう思い、アイラインもいつもより少しだけ太めに、マスカラも下睫毛までしっかり塗った。
赤に近いピンクのリップを塗り、顔立ちがハッキリしたのを確認する。悪くない。
姉が迎えにくるのを待っていると、電話が鳴る。着くにしては早いなと思えば、あまねくんだった。
「もしもし」
「もしもし、まどかさん今平気?」
「うん。何だかずっとすれ違っちゃってごめんね」
「時間合わない時には合わないね。毎日のように会ってた時もあったのに……」
「会議あったりで忙しくて……ごめんね」
「仕事ならしょうがないよ。俺も忙しい時期はまどかさんに寂しい思いさせちゃったし」
「うん、ありがとう」
「うん……まどかさん、今日会える?」
「ごめん、今日は今から用事があるんだ」
「用事?」
「うん。出かけるの」
「そっか……」
彼の声のトーンが下がった気がするが、そのタイミングでピンポーンとチャイムが鳴る。
「あ、来たみたい」
「え? 誰が?」
「あまねくん、私明日休みだからさ、明日ならちゃんと電話できるから。とりあえず行ってくるね」
「え? あ、うん……。いってらっしゃい……」
あまねくんとの電話を切って、玄関に向かう。ドアを開ければ、昼間よりも更に綺麗に着飾った姉がいる。
もともとはギャルで派手好きだった姉だ。いくら以前に比べて落ち着いたとは言え、こうしているととても教師には見えない。
「ちょっと早めに着いちゃったけど支度できてるじゃん」
「うん。いきなりレストランなんてどういうこと?」
「いいから、いいから。とにかく今日は朝のお礼も兼ねてご馳走させて! たまにはいいもの食べたいでしょ?」
「うん……、食べたい」
「じゃあ、行こう」
姉に促されて、家を出た。車の後部座席に乗り込めば、運転席には菅沼さんが乗っていた。
「こんばんわ。お久しぶりですね。お願いします」
「こんばんわ。本当に久しぶりだね。たまには家に遊びにおいでよ」
「2年くらい前まではよくお邪魔させてもらってましたね。懐かしい」
アパートから今のマンションに引越し、素敵な家だったため、あの頃はよく見物がてらに遊びに行っていたものだ。
食事も姉が作ってくれたり、3人で食べに行ったり。それもいつの間にかなくなってしまったけれど。
「あんたの方は、彼氏どうなったの?」
「彼氏? ……あー、別れたよ」
「別れた? あの、税理士の子?」
「うん。今、別の人と付き合ってる」
「ああ、そう。何してる子?」
「……税理士」
少し言いにくそうに言えば、菅沼さんの「え?」という戸惑う声と、「あんた、変なことに巻き込まれてるんじゃないでしょうね」という鋭い憶測が飛び込んでくる。
元彼と同じ職種だったというだけで、何でこんなに疑うかなぁなんて思うものの、完全に事件に巻き込まれた者としては苦笑するしかなかった。
目覚ましの音で飛び起きる。綺麗目の格好をしておいてだなんていうものだから、着ていく服も迷ってしまう。
ワンピースが楽でいいかと思いながら、いくつかあるうちの黒いワンピースを選んだ。
Vネックの襟に映えるよう、小振りのネックレスをつけて、靴はあまねくんに貰ったピンヒールにした。
この靴を履いて何度か彼とデートをしたっけと思い出す。
髪を巻いて、エレガント風に仕上げた。ピアスも靴に合わせて同じ色調のものを選ぶ。夜だから化粧は少し濃い方がいいかもしれない。そう思い、アイラインもいつもより少しだけ太めに、マスカラも下睫毛までしっかり塗った。
赤に近いピンクのリップを塗り、顔立ちがハッキリしたのを確認する。悪くない。
姉が迎えにくるのを待っていると、電話が鳴る。着くにしては早いなと思えば、あまねくんだった。
「もしもし」
「もしもし、まどかさん今平気?」
「うん。何だかずっとすれ違っちゃってごめんね」
「時間合わない時には合わないね。毎日のように会ってた時もあったのに……」
「会議あったりで忙しくて……ごめんね」
「仕事ならしょうがないよ。俺も忙しい時期はまどかさんに寂しい思いさせちゃったし」
「うん、ありがとう」
「うん……まどかさん、今日会える?」
「ごめん、今日は今から用事があるんだ」
「用事?」
「うん。出かけるの」
「そっか……」
彼の声のトーンが下がった気がするが、そのタイミングでピンポーンとチャイムが鳴る。
「あ、来たみたい」
「え? 誰が?」
「あまねくん、私明日休みだからさ、明日ならちゃんと電話できるから。とりあえず行ってくるね」
「え? あ、うん……。いってらっしゃい……」
あまねくんとの電話を切って、玄関に向かう。ドアを開ければ、昼間よりも更に綺麗に着飾った姉がいる。
もともとはギャルで派手好きだった姉だ。いくら以前に比べて落ち着いたとは言え、こうしているととても教師には見えない。
「ちょっと早めに着いちゃったけど支度できてるじゃん」
「うん。いきなりレストランなんてどういうこと?」
「いいから、いいから。とにかく今日は朝のお礼も兼ねてご馳走させて! たまにはいいもの食べたいでしょ?」
「うん……、食べたい」
「じゃあ、行こう」
姉に促されて、家を出た。車の後部座席に乗り込めば、運転席には菅沼さんが乗っていた。
「こんばんわ。お久しぶりですね。お願いします」
「こんばんわ。本当に久しぶりだね。たまには家に遊びにおいでよ」
「2年くらい前まではよくお邪魔させてもらってましたね。懐かしい」
アパートから今のマンションに引越し、素敵な家だったため、あの頃はよく見物がてらに遊びに行っていたものだ。
食事も姉が作ってくれたり、3人で食べに行ったり。それもいつの間にかなくなってしまったけれど。
「あんたの方は、彼氏どうなったの?」
「彼氏? ……あー、別れたよ」
「別れた? あの、税理士の子?」
「うん。今、別の人と付き合ってる」
「ああ、そう。何してる子?」
「……税理士」
少し言いにくそうに言えば、菅沼さんの「え?」という戸惑う声と、「あんた、変なことに巻き込まれてるんじゃないでしょうね」という鋭い憶測が飛び込んでくる。
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