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愛情
【7】
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「何であまねくんが焦るの?」
「あの子さ、やたら雅臣のこと言うでしょ? ありゃ多分劣等感だよ」
「劣等感?」
「大学も途中で嫌になったことあったって言ってたじゃん? 雅臣は東大出てるし、税理士としては優秀だったらしいよ。脱税したけど。あんなことさえなきゃあのまま親の事務所継いで、億万長者だったわけよ。あんたは、その男の元カノだからね。全く違う職種の男ならまだしも、同業者ってなると思うところがあるんじゃない? 年下ってことも気にしてるし」
「あー……それは、よく言うんだよね。俺は年下だから信用ないの? とか……」
「ほら。あまねも不安なんじゃない?」
「うーん……3ヶ月で結婚って早くない?」
「早いか早くないかなんて2人の問題でしょ? なんならあんたっち、半同棲みたいなもんじゃん。5年付き合ってた雅臣より会ってるかもよ」
「それは言えてる」
雅臣との交際期間は5年だったが、月に2回会うのが私達のペースだった。それに比べてあまねくんとは週に何回と決まっているわけではないけれど、お互いの仕事によって突然お泊まりが決定することもある。
私が翌日休みの時にしか会っていなかった雅臣と比べれば、私が次の日仕事でもあまねくんと会うことがあるのだから、そりゃ回数も重ねる。そう考えると、翌日が仕事でもあまねくんに会えたら頑張れると思えるのだから、私は相当彼のことが好きなのだろう。
「まあ、長く付き合うことであんたの気持ちに整理がつくなら好きにしたらいいけどさ。雅臣が一向に結婚の話を進めてくれなくて、モヤモヤしてたあんたみたいな状態に彼の方がなったらさ、それこそ見切りをつけて捨てられるかもよ」
「……捨てられる?」
「そうでしょ。あんたが言ったみたいに相手は若いし、経済力もあるし、それにあのルックスだよ? あんた以外の女が喉から手が出るほど欲しい男だよね」
「……そうだよね。何なら、付き合えてることも奇跡だよね?」
「そう思うなら、あまねの気が変わらない内に籍入れな。雅臣と別れさせてくれて、向こうから結婚したいって言われる程愛されてるのに何が不満なのか私にはわからないよ」
「うん……」
「籍入れる入れないはいいとして、とりあえず挨拶だけ行ってくれば? 家族が歓迎してくれそうならそのまま入籍でもいいじゃん」
「そっか……そうだよね」
私の母親とあまねくんは既に顔を合わせている。先月、一緒に食事を作っている時に、急にやってきた母があまねくんをとても気に入っていた。
雅臣と別れたことを言っていなかったため、初めから説明するのも面倒だったが、あまり人の話を聞かない母は「それで、孫はいつ見られるの?」と私の話を一掃してそう言った。
あの反応を見るに、母はいつ結婚しても祝福してくれるだろう。それよりも早く孫の顔が見たいようだ。
1つ上の姉、さくらも結婚しておらず、子供もいないため、余計に孫の顔が見たいと期待されているようだった。
姉だって彼氏と同棲を始めて4年経つのだから、それこそさっさと入籍すればいいと思うのだけれど、一向にその気配もない。そう考えれば、茉紀の言う2人の問題という言葉にも頷ける。
「家族に会ってみる気になったの?」
「……うん。とりあえず紹介だけしてもらおうかな。いきなり結婚しますって挨拶に行くのも失礼な気がするし」
「私なんて、いきなりできちゃったので結婚しますって言ったけどね」
「そうでした……。それまで向こうの両親に会ったことなかったんだっけ?」
「うちには来たことあったけど、私が行ったことはなかっただよ。うちの両親は、アイツと会ってたから、まぁしょんないって許してくれたけどさ、向こうの母親がうちの息子をたぶらかしたって癇癪起こしただよね」
「そうだっけか!?」
「そうだよ。散々ぐずぐず言われて、産まれたら男じゃん? もう豹変だよ。茉紀さんよく頑張ったわねぇって。ぶん殴ってやろうかと思ったけど、お義父さんはいい人だもんで何とか堪えたよ」
「あんた、そんなんでよく子供預けるじゃん!」
「まあ、子供に対しては甘いもんでね。面倒みてもらえばご機嫌とりにもなるし、私も楽できるし」
光輝ができた頃には、私は雅臣と付き合い始めるかどうかぐらいの時期だったため、自分のことで精一杯だったのか、茉紀がそこまで愚痴を言わなかったのか、向こうの親とのやり取りについては私自身あまり覚えていなかった。
「あの子さ、やたら雅臣のこと言うでしょ? ありゃ多分劣等感だよ」
「劣等感?」
「大学も途中で嫌になったことあったって言ってたじゃん? 雅臣は東大出てるし、税理士としては優秀だったらしいよ。脱税したけど。あんなことさえなきゃあのまま親の事務所継いで、億万長者だったわけよ。あんたは、その男の元カノだからね。全く違う職種の男ならまだしも、同業者ってなると思うところがあるんじゃない? 年下ってことも気にしてるし」
「あー……それは、よく言うんだよね。俺は年下だから信用ないの? とか……」
「ほら。あまねも不安なんじゃない?」
「うーん……3ヶ月で結婚って早くない?」
「早いか早くないかなんて2人の問題でしょ? なんならあんたっち、半同棲みたいなもんじゃん。5年付き合ってた雅臣より会ってるかもよ」
「それは言えてる」
雅臣との交際期間は5年だったが、月に2回会うのが私達のペースだった。それに比べてあまねくんとは週に何回と決まっているわけではないけれど、お互いの仕事によって突然お泊まりが決定することもある。
私が翌日休みの時にしか会っていなかった雅臣と比べれば、私が次の日仕事でもあまねくんと会うことがあるのだから、そりゃ回数も重ねる。そう考えると、翌日が仕事でもあまねくんに会えたら頑張れると思えるのだから、私は相当彼のことが好きなのだろう。
「まあ、長く付き合うことであんたの気持ちに整理がつくなら好きにしたらいいけどさ。雅臣が一向に結婚の話を進めてくれなくて、モヤモヤしてたあんたみたいな状態に彼の方がなったらさ、それこそ見切りをつけて捨てられるかもよ」
「……捨てられる?」
「そうでしょ。あんたが言ったみたいに相手は若いし、経済力もあるし、それにあのルックスだよ? あんた以外の女が喉から手が出るほど欲しい男だよね」
「……そうだよね。何なら、付き合えてることも奇跡だよね?」
「そう思うなら、あまねの気が変わらない内に籍入れな。雅臣と別れさせてくれて、向こうから結婚したいって言われる程愛されてるのに何が不満なのか私にはわからないよ」
「うん……」
「籍入れる入れないはいいとして、とりあえず挨拶だけ行ってくれば? 家族が歓迎してくれそうならそのまま入籍でもいいじゃん」
「そっか……そうだよね」
私の母親とあまねくんは既に顔を合わせている。先月、一緒に食事を作っている時に、急にやってきた母があまねくんをとても気に入っていた。
雅臣と別れたことを言っていなかったため、初めから説明するのも面倒だったが、あまり人の話を聞かない母は「それで、孫はいつ見られるの?」と私の話を一掃してそう言った。
あの反応を見るに、母はいつ結婚しても祝福してくれるだろう。それよりも早く孫の顔が見たいようだ。
1つ上の姉、さくらも結婚しておらず、子供もいないため、余計に孫の顔が見たいと期待されているようだった。
姉だって彼氏と同棲を始めて4年経つのだから、それこそさっさと入籍すればいいと思うのだけれど、一向にその気配もない。そう考えれば、茉紀の言う2人の問題という言葉にも頷ける。
「家族に会ってみる気になったの?」
「……うん。とりあえず紹介だけしてもらおうかな。いきなり結婚しますって挨拶に行くのも失礼な気がするし」
「私なんて、いきなりできちゃったので結婚しますって言ったけどね」
「そうでした……。それまで向こうの両親に会ったことなかったんだっけ?」
「うちには来たことあったけど、私が行ったことはなかっただよ。うちの両親は、アイツと会ってたから、まぁしょんないって許してくれたけどさ、向こうの母親がうちの息子をたぶらかしたって癇癪起こしただよね」
「そうだっけか!?」
「そうだよ。散々ぐずぐず言われて、産まれたら男じゃん? もう豹変だよ。茉紀さんよく頑張ったわねぇって。ぶん殴ってやろうかと思ったけど、お義父さんはいい人だもんで何とか堪えたよ」
「あんた、そんなんでよく子供預けるじゃん!」
「まあ、子供に対しては甘いもんでね。面倒みてもらえばご機嫌とりにもなるし、私も楽できるし」
光輝ができた頃には、私は雅臣と付き合い始めるかどうかぐらいの時期だったため、自分のことで精一杯だったのか、茉紀がそこまで愚痴を言わなかったのか、向こうの親とのやり取りについては私自身あまり覚えていなかった。
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