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モテ期到来!?
ギュッてして下さい!
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私は先生を追いかけた。今出ていったばかりだからまだいるはず。
キョロキョロと見渡せば、別の病室へ入っていく先生の姿。手術前に自分の患者のところへ回診にいっているのだろう。
病室は残り4部屋。全て個室でその内の2部屋が先生の患者さん。だからあと2人診たら、一旦時間ができるはず……。
私はコソコソと先生の後をつける。本来こんなことをしている暇など私にはない。
私だって午後の抗生剤の準備をしなきゃいけないし……。今日のペアが後輩でよかった。先輩だったらこんなふうにウロウロしてられないし。って、後輩がペアでも仕事サボったらダメだけど……私用で現場離れたらダメだけど……でも、気になって仕事どころじゃないんだもん。
私はきゅっと口を結んで、回診が終わるのを待った。病棟を出た先生。丁度カンファレンス室のドアの前。
しめた! そう思った私は先生に急いで駆け寄り、白衣の背中部分を指先で摘んで引っ張った。
「先生!」
「……なに。急用?」
「いえ、あの……」
「今からオペ」
「わかってます! ちょっとだけ!」
私は先生の白衣を引っ張って、カンファレンス室に連れ込んだ。
「ちょ、お前っ……」
ととっと数歩小走りになる先生は怪訝な顔をした。
「3分だけです!」
「は?」
「ギュッてして下さい……」
そう言いながら、私は先生に抱きついた。背中の白衣を握って顔を埋めた。
「……お前な、この部屋使ってたらどうするつもりだったんだよ」
呆れた先生の声が聞こえて私はハッと顔を上げた。咄嗟に部屋に飛び込んだが、もしかしたら患者さんと川崎先生がいたかもしれない。今になってゾッと背筋が凍る。
今は先生が2人しかいないから、この部屋を使っている頻度は低い。ましてその内の1人は私の目の前にいるのだから余計に。だからといって何も考えてなさすぎた。とにかく先生と2人にならなきゃって必死で。
「しょーがねぇヤツ」
そう低い声が聞こえて先生の腕に包まれた。背中に体温が伝わって、ようやく安心した。
よかった……抱きしめてくれて。もうしてくれなくなったらどうしようかと思った。
「……先生?」
「んー?」
「朝はごめんなさい」
「……別に。仕事優先なのは正論だし」
「……大した用事じゃありませんでした」
「だろうな。俺とお前がいつも勤務前に一緒にいるのが気に入らなかったんだろ」
先生の言葉に私はパチパチと瞬きをする。いつもって……槙さん気付いてる?
「え? 槙さん知ってるんですか?」
「そりゃな。ずっとお前のこと目で追いかけてるから」
「え!?」
「気付いてないのはお前だけ。アイツがお前のこと好きなの結構前からしってたし。俺」
「な、なんで言ってくれなかったんですか!?」
「本人が言わないのに俺から言えるかよ……」
「……そうですよね」
声だけで先生の表情がわかるようだった。彼の匂いでいっぱいになって、とても落ち着く。
……槙さんといる時とはやっぱり違う。
居心地の良さに気付いてしまった。先生の腕の中は心地いい。本当は毎日楽しみにしてたんだな……。
最初は緊張していたのが、今は安心感の方が勝っている気がする。私はそっと目を閉じて、先生の体温を感じていた。
キョロキョロと見渡せば、別の病室へ入っていく先生の姿。手術前に自分の患者のところへ回診にいっているのだろう。
病室は残り4部屋。全て個室でその内の2部屋が先生の患者さん。だからあと2人診たら、一旦時間ができるはず……。
私はコソコソと先生の後をつける。本来こんなことをしている暇など私にはない。
私だって午後の抗生剤の準備をしなきゃいけないし……。今日のペアが後輩でよかった。先輩だったらこんなふうにウロウロしてられないし。って、後輩がペアでも仕事サボったらダメだけど……私用で現場離れたらダメだけど……でも、気になって仕事どころじゃないんだもん。
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「先生!」
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「いえ、あの……」
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私は先生の白衣を引っ張って、カンファレンス室に連れ込んだ。
「ちょ、お前っ……」
ととっと数歩小走りになる先生は怪訝な顔をした。
「3分だけです!」
「は?」
「ギュッてして下さい……」
そう言いながら、私は先生に抱きついた。背中の白衣を握って顔を埋めた。
「……お前な、この部屋使ってたらどうするつもりだったんだよ」
呆れた先生の声が聞こえて私はハッと顔を上げた。咄嗟に部屋に飛び込んだが、もしかしたら患者さんと川崎先生がいたかもしれない。今になってゾッと背筋が凍る。
今は先生が2人しかいないから、この部屋を使っている頻度は低い。ましてその内の1人は私の目の前にいるのだから余計に。だからといって何も考えてなさすぎた。とにかく先生と2人にならなきゃって必死で。
「しょーがねぇヤツ」
そう低い声が聞こえて先生の腕に包まれた。背中に体温が伝わって、ようやく安心した。
よかった……抱きしめてくれて。もうしてくれなくなったらどうしようかと思った。
「……先生?」
「んー?」
「朝はごめんなさい」
「……別に。仕事優先なのは正論だし」
「……大した用事じゃありませんでした」
「だろうな。俺とお前がいつも勤務前に一緒にいるのが気に入らなかったんだろ」
先生の言葉に私はパチパチと瞬きをする。いつもって……槙さん気付いてる?
「え? 槙さん知ってるんですか?」
「そりゃな。ずっとお前のこと目で追いかけてるから」
「え!?」
「気付いてないのはお前だけ。アイツがお前のこと好きなの結構前からしってたし。俺」
「な、なんで言ってくれなかったんですか!?」
「本人が言わないのに俺から言えるかよ……」
「……そうですよね」
声だけで先生の表情がわかるようだった。彼の匂いでいっぱいになって、とても落ち着く。
……槙さんといる時とはやっぱり違う。
居心地の良さに気付いてしまった。先生の腕の中は心地いい。本当は毎日楽しみにしてたんだな……。
最初は緊張していたのが、今は安心感の方が勝っている気がする。私はそっと目を閉じて、先生の体温を感じていた。
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