その傷を舐めさせて

雪村こはる

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お付き合いすることになりまして

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 夜天はふと手を止めた。医師としての意識が先に動いたが、夕映が下着を着けていないことに気付き、そちらに意識を持っていかれた。

 ちょっと待て……寝る時ってあの、ナイトブラとかそういうの着けるんじゃねぇのか? あの、色気のねぇやつ。なんでつけてねぇんだよ。

 内心動揺しながら、態度には出すまいと平然を装う。チラリと夕映の顔を見れば、恥ずかしそうにギュッと目を瞑って顔を背けていた。

 そりゃそうだよな……。つーか、このまま襲えるし……。

 仰向けで横たわる夕映に、覆い被さるようにして横から覗き込む状態の夜天。第3者から見れば、確実に男女のそれに見えるはずだ。
 それでも夜天は必死に意識を創部に向ける。掻いて赤くなったそこは、夕映が言ったように少し盛り上がっていた。

「お前、ケロイド体質か?」

「……ケロイド?」

 夕映は薄ら目を開けると、考えるかのように目を瞬かせた。

「こうやって傷口がボコボコ盛り上がったやつな。真皮で炎症起こして長いこと続くと治る過程で膠原繊維ができんだよ」

「で、でも、今まで怪我しても綺麗に治りましたよ?」

「深く切ったからだな……。姉貴に診せた?」

「いえ……受診の数がけっこう減ったので……」

「体質だからどうしようもねぇけどな。時間が経てば薄くなってくと思うけど、確かにこれは時間かかるわ。痒みが強い時点で疑うべきだったな……」

 うーんと唸る夜天にふと不安になる夕映。病気は完治できた。傷だって小さく済んで、わからないくらいに綺麗に治るって聞いたのに……。そう思ったら急に悲しくなった。

「時間かかるってどのくらいですか?」

「どうだろうな……まぁ、何年かは」

「な、何年も!?」

「それも、完全に綺麗にはならないと思う……。軟膏やテープを貼って治療する方法はあるけど」

「そうですか……」

 夕映自身、手術をしたから傷口の治りが遅いのであってそれが炎症によるものだとは思っていなかった。もちろん外科に配属されてから、創部はいくらでも確認する。
 しかし、経過が良ければ夕映ように退院していくのだ。その後の創部がどういう経過をたどるかは外来でなければ見ることができない。

 なにも気にしていなかったために、夕映にとって醜い傷痕が残るのはショックなことだった。
 先程まであんなにもお菓子で浮かれていた夕映の表情が一気に曇ったことで、夜天は胸が締め付けられるように痛んだ。
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