その傷を舐めさせて

雪村こはる

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お付き合いすることになりまして

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 夕映ははっと思いついたように顔を上げた。

「そうですね! これじゃ雰囲気出ないですよね! さすがにパジャマのまま行くのは気が引けて着替えを持ってきたんです!」

 意気揚々と話す夕映に小さく頷く夜天。せっかくなら見たことのないパジャマ姿というヤツを見せてもらおうじゃないかと興味津々である。

「じゃあ、向こうで着替えてこいよ」

 そう言って指を差したのは脱衣場。普段自分しか入らない場所だ。最後に女性がきたのだってもう何年か前のこと。あの時もこんなふうに期待したかなとふと考える。
 しかし、仕事に追われていて心に余裕のなかった当時の夜天の心情など自分でもよく覚えていなかった。

 考えてみりゃずっと仕事ばっかりしてきたな……。夕映や旭のことを言ってみたものの、俺は仕事より恋愛を優先してのめり込むこともなかった。
 今まで付き合ってきた女性は自分と同世代だったし、我儘を言われても「お互い大人なんだから」そう言って突き放したこともあった。

「あ! じゃあ、借りますね! 着替えてきます!」

 飛び跳ねるようにして軽快に立ち上がる夕映。今にもスキップでもしそうでその浮かれた様子が見てとれた。
 その背中を目で追ってふっと頬が緩む。

 年が離れすぎてるから反対にいいのかもな……。相手に大人の対応を求めるのも、それが当然だと思うのも疲れるし。最初から子供だと思って接してる方が気が楽だしな……。

 夜天は、今までの女性に感じたことのない心のゆとりを感じていた。もちろん、旭のことを考えたら余裕などないのだけれど、夕映に求めるものが他の女性よりも少ないことにも気付く。むしろ自分からなにかをしてあげたいと思ったのは初めてのことだった。
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