その傷を舐めさせて

雪村こはる

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お付き合いすることになりまして

01

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 夜天は仰向けに寝転んで、頭の下で手を組んだままじっと天井を見上げていた。居心地いい使い慣れたベッドの上。
 不機嫌そうに顔をしかめると、手を伸ばしてスマートフォンを手に取る。それからコミュケーションアプリを開いて夕映とのやり取りを再確認した。

『飯食いに連れてってやる。今週の土曜日空いてるか?』

『お疲れ様です! 申し訳ないんですけど、今月から夜勤が始まるのでもう土日休みじゃなくなっちゃったんです。すみません』

 なんだよ……。せっかく誘ったのに。土日休みじゃないならいつ休みなんだよ。いつなら空いてるかくらい入れて寄越せ。
 夜勤だと? 全然時間合わなくなるじゃねぇか。俺の方が旭よりもリードしてると思ってたのに……。あーくそ、上手くいかねぇな!

 夜天は不貞腐れたように枕に顔を埋めて、大きな大きなため息をついた。

 夕映にはもちろん旭と話したことなど言っていないし、旭が夜天に事実を把握されていたことを知ったということも気付いていない。

 まだ大丈夫だ、大丈夫。どうせ旭は武内のことを諦められるわけねぇんだから。今まで見てるだけでよかったヤツが協力っていう甘い提案をされれば心が揺らぐことくらいわかってる。
 まだ時間はあるし……。って、いつ空いてんだよ!

 夜天は苛立ちを募らせながら、夕映の今月の休みを全て確認した。ほとんど平日休みの夕映にガックリと肩を落とす。

 こんなことなら毎週会っときゃよかったな……。
 そっと指先でスマートフォンの画面をなぞる。

 電話くらいならいいか……。少し声を聞くだけなら……。
 夜天はそう思ったら躊躇わずに電話をかけた。

「……もしもし。お疲れ様です……」

 暫く呼出音が鳴った後、眠たそうな声が聞こえた。

「あ……わり、寝てたか?」

「んー……さっき目を閉じたばかりなので大丈夫です……」

 メッセージの返信がなくなったから、寝落ちしてたんだろうなと今になって夜天は思う。ただ、いつもよりもゆっくりと喋る夕映の声が妙に色っぽく聞こえた。ドクンッと大きく鳴った胸をそっと手で押さえる。

 なんだよ、夕映のくせに……ガキのくせに……。女みたいな声出してんじゃねぇよ。

 心の中で悪態をつきながら「別に……用事ってわけじゃねぇんだけど……」ともごもごと呟く。
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