その傷を舐めさせて

雪村こはる

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近付く距離と遠ざかる距離

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 翌日、夜天が足を運んだのは旭のもとだった。一応外来のドアをノックしてからドアを開ける。返事をする前に現れた夜天に旭は眉を上げた。

「……お疲れ様。どうしたの? わざわざ」

「ちょっと私用でな」

「私用? 患者さんのことじゃないってことか……」

「この時間ならもう残ってるヤツもいないと思って」

「うん。もう看護師さんも他の先生も帰ったか病棟にいるか……こんな時間に外来ブースを使ってるのなんて俺達くらいだからね」

 旭はふっと頬を緩めると、椅子を回転させ夜天と向き合った。夜天は本来患者が座るはずの小さな椅子に腰掛ける。身長との高低差で長い足が余り、置き場所に困ったが旭を挟み込むような形で落ち着いた。

「急に来てこんな話をするのもなんだけど、お前武内に惚れてんだろ」

 夜天はストレートにそう伝えた。遠回しな言い方では埒が明かない気がした。そんな言葉が出てくるなどとは予想もしていなかった旭は目をまん丸くさせる。その表情だけでも夕映同様にわかりやすかったかったが、しっかりと旭から言葉で聞くまでは確証を得ることはできないと決めつけるのはやめた。

「……何言ってんの? 言ってる意味がわかんないんだけど」

「隠すなよ。夕映から聞いた」

 ……悪いな。一時的に悪者になってもらうぞ。
 夜天は心の中でそう呟いたが、旭は一旦目を伏せ「まさか。そんなことを言いふらすような子じゃない」と言った。

「……夕映のこと、信用してはいたんだな」

「どうかな。100%じゃないけど。どうせ夜天がかまかけたかなんかしたんでしょ」

 ふうっと息をつく旭。夜天はさすがに夕映ほど簡単じゃないかと苦笑した。一瞬動揺した旭も、夕映が夜天相手に器用に隠し通せるとは思えずバレてしまったのなら仕方がないと開き直った様子だった。

「そうだな。簡単だった」

 ふっと夜天が笑えば、旭もつられて笑う。

「あまり虐めないでやってよ。嘘が下手な子だから」

「お前が言うなよ。それで、本気で武内のことが好きなわけ?」

「だとしたら? ……武内に言う? 俺を脅す?」

 旭は眉を下げ、悲しそうに微笑む。その表情が、ゲイであることを軽蔑され続けてきたと言った友人と重なって見えた。

 ……夕映が旭のことを好きでなければ理解してやれたかもしんねぇな。

「いや。そういうつもりできたわけじゃない。俺は同性愛に興味はないし偏見もない。だからお前が誰を好きであろうと関係ない」

「……じゃあなんで聞いたの」

 旭は鬱陶しそうに顔をしかめた。興味ないなら深入りするなとでも言いたげだった。
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