その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達、あげようか?

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「夜天先生は、今までお付き合いしてみてよかったって思いますか?」

 まだ夕映と夜天との会話は続く。無意識に旭の耳に入ってくる言葉。旭はもしこの質問をされたのが昨日までの自分だったら、きっと夕映の気持ちも考えずに幸せだったと言ってしまったかもしれないと思った。

「よかったことも悪かったこともあるだろ。そもそもいいと思って付き合うわけだし」

「そうですよね……。いいなぁ、夜天先生は。ちゃんと恋愛してて」

「あのな、俺はお前より9年も長く生きてんだぞ。9年前の自分を想像してみろ。中学生だぞ? その頃から今までとんでもなく長かったろ。そんだけ年数あったら恋愛くらいするだろ」

「……私にもいつかできますかね。彼氏が」

「どうだろうな。少なくとも旭に今の現状を相談できてない内は無理じゃねぇの?」

 ……また俺の名前……。夜天は俺と小柳さんをちゃんとくっつけようとしてるのか……? てことは、保のことを好きだってことまでは知らないのか。

 ぼやっとそんなことを考える。夕映のことを軽くあしらったことは悪いと思う旭だが、自分だってそれ以上に保のことが好きなのだ。もしも自分の恋愛対象が女性だったなら、夜天の言うお試しだって興味本位だってしてあげられたかもしれない。けれど、気持ちが保に向いている以上、そんな軽はずみなことはできない。
 この現状を変えることなんてできないのに余計なことはしないでほしい。それが本音だった。

「荻乃先生には言いたくありません。だって先生のせいだって言ってるみたいじゃないですか」

「まあ、実際のところはそうだろ。旭にお前とは何でもないって言ってもらえよ」

「嫌ですよ……。そしたら先生、もう私と会ってくれなくなっちゃうもん」

 声のトーンを下げた夕映に、旭はそっと手で顔を覆った。
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