その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達、あげようか?

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「全部好きです」

「は?」

「優しいところも好きだし、カッコイイところも好きだし、患者さん思いなところも好きだし」

「なんだそれ。そもそもお前は患者目線でしか旭のこと知らねぇだろ」

「そうですけど、それでも他の人とは違いますもん」

「どこがだよ」

 全くわからない、といったように息を漏らす夜天。きぃっと椅子が軋む音がした。旭は、夜天が足を組み替える様子を想像した。

「荻乃先生は、私が病気で悩んでる時にいっぱい話を聞いてくれたんです。忙しいのにたくさん聞いてくれて励ましてくれました」

「ふーん」

「私、高校生だった時に好きな男の子がいたんです。同じクラスに。でも病気のせいで体育の授業に出られなくて、本当はその男の子と一緒にペアになるはずだったのに叶いませんでした」

「まぁバセドウじゃぁ、な」

「その時に私と仲良かった女の子がその男の子とペアになって……最近結婚したんです」

 夜天は一瞬言葉を詰まらせた。旭も少し顔を強ばらせた。その時、体育の授業に出られていたら、未来は違ったかもしれない。全員がそう思った。

「何にだってタイミングってもんがあるからな。その時のお前にとってはその男より病気を治すことの方が優先順位が高かっただけだろ」

「そうですね……でも私、あの時体育に出られなくてよかったって思ったんです」

「何で?」

「結婚祝いも兼ねて同窓会に参加した時、言われたんです。手術した傷が気持ち悪いって……。まだ手術もする前だったのに……」

「……その男にか?」

 カーテン越しのシルエットが頷くのが見えた。旭はぐっと胸が痛み、顔を歪めた。
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