その傷を舐めさせて

雪村こはる

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友達、あげようか?

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 岩崎の彼女が親身になってくれてるならありがたいけど、今日そんなことがあって小柳さんは大丈夫だろうか、とモヤモヤする。
 保と昴と別れた旭は、病棟へ向かう。回診し、処方と検査結果の確認をする。何だかんだやっていればまたいつもと同じ時間。明日は外来日だし、外来へ行って準備でもしようかとエレベーターに乗り込んだ。

 廊下を突き進むと、夕映が目の前を横切った。一直線に急いでいる様子で、旭には気付かなかった。

「あ……」

 そっと声を上げた旭は、その後を追った。外来へ向かって行く夕映。昨日もこの時間にいたから今日もいると思ってるのかな……。そう思いながら、旭はふっと頬を緩めた。
 内分泌内科の前。しかし、夕映はそこで立ち止まることなく通り過ぎた。

 え?

 きょとんとした顔で旭の方が立ち止まる。その10m程先で止まり、ドアをノックしていた。

 場所間違えてるけど……。それとも急用で他の医師を呼びに行ったとか? いや、PHSもあるのにわざわざ外来までこないよな。それに、ほとんど外来には誰もいないし。

 旭は軽く息を漏らし、夕映に近付いた。ドアが開くはずがない。こんな時間に外来の診察室を利用するのなんて自分くらいだ、と思いながら距離を縮めた。

 しかし夕映はすぐにドアを開けて中に入っていった。

「開いた……」

 呆然としながら旭は足早にドアに向かった。こんな時間に誰が……。そう思いながらドアを開けた。昨日の夜天と同じような体勢をしていることなどもちろん旭は知らない。

「先生、聞いてください!」

 中から弾んだ声が聞こえた。

「あ? まずはお疲れ様ですだろ 。んとに礼儀のねぇガキだな」

 夕映以外の男の声が聞こえて、旭は慌ててドアから1歩離れた。それから受付に書かれた呼吸器内科の文字を確認した。

 呼吸器!? え? じゃぁ……夜天かな……。確証はなかった。ただ、あの独特の話し方といい声の低さといい、同期の男に間違いなさそうだった。

「あ、お疲れ様です!」

「何しに来たんだよ」

「先生、今日も外来にいたんですね」

「ここの方が気が楽なんだよ。病棟にいると一々捕まるからカルテ記入ができない」

 旭はその言葉にまったくその通りだと頷いた。当然カーテンで仕切られているため、夜天と夕映は旭の存在には気付いていない。聞かれていることなど疑いもせず、会話を続けていた。
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