その傷を舐めさせて

パーティーでは淑女を演じさせていただきます

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　旭も色んな質問に悩まされるのではないかと身構えていたが、ほとんど普段の日常と変わらない日々に胸を撫で下ろした。
　噂は広まらなかったのだから、夕映との契約は破棄してもよかった。次に会った時にでも断ろう。そう思っていたのだが、実際に術後の弱々しい姿を目の当たりにしたらそんなことも言い出せなくなってしまった。

　旭も夕映のことが嫌いなわけではない。小さな可愛い患者さんだとは思っているし、自分が完治させてやることができず、希星に託してしまったことを後ろめたくも思っていた。
　術後に顔を出せば心底喜ばれ、元気そうな笑顔を見せた。実際に付き合うわけではないし、本人がそれで満足するならパーティーに連れて行ってやるくらいまぁいいか、と思えたのだ。

　更に夕映の母親から落ち込んでいた様子を聞けば、断らなくてよかったと安堵した。繊細な乙女心は難しく、自分の言動1つで精神的に不安定にさせてしまう。それはとても面倒ではあるが、好かれてしまった以上無下にもできなかった。

　オレンジ色のドレスは、傷を隠すかのように首から胸元までを生地が覆うようなデコルテが出ないデザインだった。スカートラインには細かいプリーツがいくつも入っていて、歩く度に魚のヒレのように綺麗に舞った。明るいその華やかな色は、元気溌剌な夕映にとてもよく似合っていた。
　赤いパンプスはストラップでその細い足首を更にきゅっと締め、オレンジに映える綺麗な色合いだった。
　セミロングの髪は編み込んでアップにしており、すっきりした首元がよりドレスを引き立てた。

　あどけなさを残す大きな瞳は、オレンジ系のアイカラーでグラデーションされ、瞬きする度にキラキラと輝く。グロスで濡れた、熟れたさくらんぼのように艶のある赤い唇は、足元で光るパンプスとも絶妙なバランスだった。

　そんなふうに普段とは、更に言えば術後の疲弊しきった見た目とは全く違う装いに旭の気持ちも明るくなった。