その傷を舐めさせて

パーティーでは淑女を演じさせていただきます

17

　旭は笑顔を作り「大学の頃からお付き合いされていたと聞いていますよ」と言った。

「ああ、もうタメなんだから敬語とかいいの。私、堅苦しいのとか苦手だから」

　豪快に笑う姿に夕映はパチパチと目を瞬かす。保の妻は、傍から見れば上品な大人の女性。しかし、実際に近くで見ればどうやら子供のように無邪気で想像していた人物とは違うようだった。

「それで、こちらの可愛い子が彼女さんね」

　急に距離を詰められて圧倒されている旭は、「ええ……」とだけ返事をした。ぐいっと顔を近付けられ、夕映はきゅっと口を結んで1つ1つが整ったパーツを並べた顔を見上げた。

「夕映ちゃんだっけ？」

「はい……」

「可愛い名前ね」

「ありがとうございます……」

　ふわっと香る大人の匂い。甘さすぎず、爽やかさの方が勝っている。スッキリとした性格の和泉に似合っている気がした。

「4月からうちの病院の看護師さんだって」

　保の声だけが聞こえ、和泉は夕映を見たまま「へぇ？　そうなんだ。初めての就職？」と首を傾げる。

「はい。よろしくお願いします」

「うん、よろしくね。私は病院は違うんだけど、市立病院で医師をやってるの」

「あ……同じ医大生だったんですね」

「ううん。私は県外の大学にいたから。医大だったけど、間接的な友達がいてそれで。地元がこっちだから戻ってきたの」

「てっきりモデルさんかと思ってました……」

　ついポツリと夕映が呟いてしまえば和泉はからっと笑って「背が高いのだけが取り柄だからねー。私も夕映ちゃんみたく可愛らしく生まれたかったわ」と肩を揺らした。

「おい、てめぇのデカさは背だけじゃねぇだろ。口も態度もな」

　鼻で笑う昴の声が聞こえ、小さく舌打ちをする和泉。ばっと振り返ると「どっちがよ。あんたは態度がデカいわりに器は小さいじゃない」とすぐに反撃する。
　濃紺色のタイトなドレスは、そのくびれをぎゅっと引き締めさせているがその位置はとんでもなく上にあり、超人な足の長さに夕映は何度もそのスタイルを見直した。