その傷を舐めさせて

雪村こはる

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診察は手術の後で

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「それで先生、私の家わかるんですか?」

 立ったまま、旭の顔を覗き込むようにして夕映は身を屈めた。

「日が近くなったら教えてもらうよ。まぁ……カルテに住所載ってるけどね。一応個人情報だし」

「先生、連絡先を教えていただければマップ付きで」

「大丈夫。それは大丈夫。住所さえわかればナビで行けるから。とりあえずきみは退院することを最優先に考えて。続きはそれからで」

「退院したら続きもなにも会えないじゃないですかー! 連絡も取れないし、どうやって打ち合わせするんですかー!」

「18時に小柳さんの家に行くよ。パーティーは19時からだから早めに合流して軽く流れを確認しよう」

 どこまでも冷静な旭は静かにそう言った。体を起こして長い足を組み替える。連絡先なんか教えたら、毎日しつこく連絡してくるに違いないと身構えた。

「うー……わかりました。じゃあ、その日に家で待ってます」

「うん。退院日にはちゃんと寄るよ」

「……明日は?」

「元気そうだし」

「明日も来てください! 毎日来てください! 渕上先生に丸投げはよくないですよ! 患者が退院するまでが医師の務めです」

「……わかったようなことを言うね。正論だけど」

「荻乃先生が来てくれたら、私どんどん元気になれますから! そしたら早く退院するかもですよ?」

「あぁ。予定より退院が早まるならそれはいいかもしれませんね」

 旭がにっこり笑うと「早く出てけってことですか!?」と夕映は口をあんぐりさせた。時々棘のある言葉を発する旭だが、契約を持ちかけたあの日から妙に遠慮がないような気がした。
 冗談を言いながらおかしそうに笑う旭の顔を見ながら、いつまでもずっとこの時間が続けばいいと夕映は思った。
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