その傷を舐めさせて

雪村こはる

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診察は手術の後で

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 旭のことを考えていたものだから、その声の主が本人だとすぐに気が付いた。

「荻乃先生!」

 マスクを外された開放的な口は、病室いっぱいに旭の名前を呼んだ。

「まだ挨拶しかしてませんが」

 そっとカーテンが開かれ、苦笑した旭が顔を出した。希星と同じように看護師を連れているのかと思いきや、どうやら旭1人のようだった。

「先生のことは声でわかります」

「そうですか。優れた聴覚ですね」

「好きだからです」

「ありがとうございます。体調はどうですか」

「今のところ大丈夫です。渕上先生がマスクも外してくれました。今日から歩いていいそうです」

 まるで挨拶の一環として扱われた熱い想いは、さらりと過ぎ去っていく。

「よかったですね。痛みは?」

「まだ麻薬が効いてるみたいであまりないです。自分では傷口も見れてませんが」

「昨日終えたばかりなので焦ることはありませんよ。ゆっくり回復するのを待ちましょう」

「でも渕上先生は、回復を早めるためには早期離床! って」

「まあ、外科と内科の考え方は違いますから」

 ふふっと笑って見せるが、多少の対抗心のようなものも垣間見れた。旭はベッドの足側をぐるっと回り、先程希星が処置を行った場所までやってきた。
 夕映ははっと息をのむ。

 そっちはダメ! だって、私のおしっこが!

 そう心の中で叫ぶが、全く気にする素振りのない旭は「元気そうで安心しました。昨日は眠っている時間の方が長かったので」と言った。
 近くで鼓膜を震わせる心地好い低い声は、夕映の胸を高鳴らせる。しかし、一方で蓄尿袋の存在が気になって仕方がない。
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