その傷を舐めさせて

先生は同性愛者

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　旭は頬杖をついたまま長い足をそっと組むと「それで、契約っていうのは？　提案するからにはお互いに利得があるんでしょ？」と言った。

　主治医らしからぬ態度の悪さだが、夕映は貴重な姿が見られたと心の中で歓喜の声を上げた。夕映の中でキャーキャーと騒ぎ立てる。

「もちろんです！　契約ですから、普段のお付き合いして下さいとは違いますけど、私としましてはまずデートをしていただきたいと思います」

「……デート」

「忙しいのは重々承知なので、本当にちょこっと数時間だけでいいのでデートがしたいのです」

「それが小柳さんにとっての利益？」

「欲を言えば、連絡先を交換してたまに電話なぞしていただけたら。あと、私もロック画面に荻乃先生の写真を設定したいのですが。あ、あと、下の名前で呼んでいただけたら尚嬉しいです」

「欲張ったね」

　真顔でそう言った旭に、「はい！」と元気よく挙手した。

「連絡先は無理。電話も無理。写真は無理。デートは、パーティーが済んだ後で。それなら可能ですが、夕映さん？」

　ふっと微笑を浮かべた旭に、夕映はぱちくりと目を大きくさせた。初めて名前で呼ばれたことを徐々に実感すると、ズギューンと胸に激しい衝撃が走った。

「せ、先生……胸の動悸がします。甲状腺が悪化したかもしれません」

「そんなことではトリヨードサイロニンは分泌されません」

「私の視床下部が誤作動を起こしています」

「それは前からです。お薬飲みましょう」

　胸を押さえてはっはっと動悸に耐える夕映にはもはや旭の声は聞こえていなかった。