その傷を舐めさせて

先生は同性愛者

19

「どこまでもポジティブだな……」

　旭は口を開けたまま呆けていた。
　確かに旭はどちらでも可能だった。同性恋愛には性行為をするにあたって夕映が言った受け入れる側、すなわち挿入される側をネコ、攻める側をタチと表現する。旭のように、相手によってどちらにでも合わせることが可能な人をリバと呼ぶ。反対にどちらかしか無理だという人を頭にバリと付けて表現する。

　旭はどちらも可能とは言ったが、実際旭が付き合ったのはネコとタチの1人ずつだった。1人は高校生の時、もう1人は大学生の時。
　異性同士の恋愛とは違い、同性同士の恋愛は成就する可能性も少なく、まして出会いの場も少ない。大人になれば、それを目的とした出会いの場もあるが、学生の旭にとっては同じように同性にしか恋愛感情が湧かない人間が貴重だった。
　だからどちらも少なくとも3年は交際期間が続いた。2人目の彼氏は同じ大学の医学生だった。医療に携わる人間だからか、初めて付き合った相手よりも性に関して考え方が奔放だった。堅苦しさがないのは旭としては楽だったが、寂しくなることもあった。

　この病院に就職し、研修医として働く中、出会った武内保。保はどこか当時付き合っていた彼氏の考え方に似ていた。ひょうきん者で明るく優しい。だから当然男女問わずにモテる。ただ、浮気性の彼氏とは違い、保は当時から付き合っていた彼女一筋だった。
　院内にいても多くの女性から言い寄られていたが、「俺、大好きな彼女がいるんだよね。だからごめんね」とやんわり断っていた。