その傷を舐めさせて

雪村こはる

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先生は同性愛者

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「わかります……その人です」

「やっぱり。気付かれてるかな、とは思ってた。黙っててくれるとは思ってなかったから特に驚かないけど」

 その一言で、夕映は旭が日頃から杏奈のことをよく思っていないのだろうと察した。
 旭はくるっと辺りを見渡すと、人気がないのを確認したが、大事をとって「とりあえず入ってくれる? あまり聞かれて気持ちのいい話じゃないから」と言って内分泌内科の診察室へ夕映を招き入れた。

 いつもの定位置に向かい合って椅子に座ると、まるで診察を受けているようだった。ただ、普段の騒がしい雰囲気とは違い辺りはしんっと静まり返っていた。
 蛍光灯の明るさは同じはずなのに、午前中に診察を受けた時よりも随分と暗い気がした。

「先生は否定しないんですね……」

 先に口を開いたのは夕映だった。

「しないよ。小柳さんは、誠実に俺に想いを伝えてくれた人だから。嘘をついたら失礼でしょ」

 思いがけない言葉に、体の中がわあっと騒いだ。どんどん込み上げるやり場のない気持ちに、夕映はツンと目頭が熱くなった。

「どういう表情なの、それ」

 旭がふはっとおかしそうに笑う。大きく開いた口に、光るほど白い歯。垂れた目尻が幼く見えた。初めて見た旭の営業用ではない笑顔に、夕映はほうっと見とれた。

「小柳さん、本気で俺のこと好きでしょ?」

 すっと目を細めた旭は口角を上げてそう言った。夕映はびくりと飛び上がったが、「すすすす好きです!」と顔を真っ赤に染めて即答した。

「ありがとうね。でも俺は、それと同じくらい、いやそれ以上かな。もう6年も片想いしてる」

 ふっと微笑んで目を閉じると、旭は腕を組んで背中を背もたれに預けた。年季の入った回転椅子がキィと軋んだ音を立てた。
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