家政夫くんと、はてなのレシピ

真鳥カノ

文字の大きさ
上 下
97 / 98
第二章 おかわり ”びっくり”たまご

4 作りたかったもの

しおりを挟む
 奈々の誇らしげな表情を、母親の満足げな表情を、なによりも外からも中からもほくほくと湯気を立てる様子を、野保も晶も興味津々に覗き込んでいた。
「なるほどな。中にソースを閉じ込めるわけか」
「生卵がとろっと出てきたら天ちゃんは食べられないから、ソースの方をとろんと出てくるようにしたのね」
 奈々は自身を持って、力強く頷いた。
「はい。チキンライスも、ミートソースとご飯を混ぜたので十分美味しいって言ってたから、それならこのソースを使おうってなって。卵の中にソース入れちゃうから、ご飯と混ぜなくてもいいって気付いて……これなら天ちゃんも気にせずに食べられるし、中からとろっと出てくる楽しみもあるし、何よりすっごい簡単やし……ね?」
 奈々の問いに、母親は苦笑いで答える。
「そう。そう言って一緒に試してたんやけど、肝心のソースを閉じ込めたオムレツ作るのが難しくて挫折してしもて……でも、ねねちゃんが完成させてくれたんやな。やっぱり凄いわ」
「すごく、頑張ってましたから。何度も何度も失敗しても、絶対に諦めないで……だから、今、できたんですよ」
 竹志は、強い声音でそう言った。決して奈々が『元々凄い』からできたのではないと、わかってほしかった。
「そうやね。あかんわ、またうっかりねねちゃんに甘えそうになってしもた。いつも何でもしっかりやってくれるもんやから、できるまでの間のことを忘れてしまうわ。ごめんな」 
 母親は、奈々の手をそっと握った。
「私は会社の仕事以外はホンマにできひんから迷惑かけてしもて……一回、ねねちゃんにも怒られたことあったなぁ」
「え、そんなことあった?」
「あったよ。朝のものすっごい急いでた時やったから。私の手際が悪すぎて、ねねちゃんに『もうええから早くご飯食べて』って言われてしもて……で、食べてる間にねねちゃんがぱぱぱーって素早く全部準備整えてくれたもんやから、余計なことせん方がいいって思ってな。でも、そのせいで色んな事どんどん、ねねちゃんに丸投げになっていってたわ。私も成長せなあかんて話やのにね」
「え、そんなこと言ったんや……全然覚えてへん」
「ねねちゃんも必死やったんやな。それを、ねねちゃんは何でもできるから、しっかりしてるからって……ホンマにごめん」
 母の手が、奈々の背中に回る。優しく、だけど強く、奈々を包み込んだ。奈々は目を瞬かせながら、おずおずと、頷いていた。
「う、うん……」
 そんな二人の服の裾を、ちょんちょんと小さな手が引っ張った。
「なあなあ、てんちゃんも、これ食べていい?」
 天はそう言って、目をキラキラさせながらオムライスを見ていた。奈々は天の為に一口、スプーンを差し込んだが……その手がピタリと止まった。
「あ、これあかんわ。卵がまだちょっととろっとしてるところがある」
「え、食べたらあかんの!?」
 ようやく食べられると思った希望が打ち砕かれ、天は絶望の表情に変わった。
 慌てる奈々の肩を、竹志はぽんと、優しく叩いた。
「大丈夫。これはお母さんに食べてもらう用だし。次に作るのは、もうちょっと長めに火を入れて作ってみよう」
「次……」
 竹志の後ろには野保たちもいる。竹志もいる。奈々自身もいるし、なにより肝心の天の分がまだできていない。
 まだまだたくさん作らなければいけない。
 また何度だって、作ればいいのだ。
「次は私にも教えて、ねねちゃん。私も作れるようになりたいわ」
「てんちゃんもつくる! おりょうり、たのしい!」
「うん。一緒に、作りたい……!」
 台所は、急に慌ただしくなった。人数分のお皿を出す音、追加で材料を取り出す音……そして一緒にフライパンを持ったり、ひっくり返したりと一つ一つの作業をこなす度、親子の賑やかな声が響くのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立

水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~ 第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。 ◇◇◇◇ 飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。 仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。 退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。 他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。 おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。 

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

2137人目の勇者として召還されたら…… 

弥湖 夕來
ファンタジー
突然異世界に召喚され、「ドラゴンを捕らえる権利が与えられた」と告げられたオレは、実は現実世界がどんなに居心地が良かったか知り……

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。