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第二章 五品目 ”はてな”を包んで

16 皆で美味しく

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「……あ、破けたわ」
「大丈夫。ここをこうしたら……ほら、閉じた」
「天ちゃん、ちょっとタネの量が多いんとちゃう?」
「おっきいのん、つくるねん」
「皮の大きさは変えられないからなぁ。もうちょっと減らそうか」
「このひだを作るのは難しいな……どうしても最後が小さくなってしまう」
「ひだって作らなきゃダメ? 閉じられないんだけど」
「何回もやったら慣れますよ。あと晶さん、タネの量が多すぎます。天ちゃんより欲張ってません?」
 居間では様々な声が飛び交い、テーブルの上に並べられた大小様々な皿の上を7人の手が行き交う。
 賑やかな声のもと、はじめは空だった大皿が、色んな大きさ、色んな形の餃子で埋まっていく。
「やっぱり皆でやれば早いんやなぁ」
「うん、そやね……それに」
 母の声に、奈々は頷く。そして、その先を口にすることを、一瞬躊躇っていた。
 ちらりと母の方を見ると、奈々の母親は、ただじっとその先を待っていた。何も言わないのは、意見がないから……そう断じていた母が、奈々の言葉をきちんと待っていた。
 奈々は意を決したように、母の顔を真っ直ぐに見つめて、告げた。
「皆で作るん……楽しい」
 奈々は、笑ってそう言った。相手が母親だからだろうか、それとも、ずっと言いたかった言葉だからだろうか。奈々の笑顔は、これまで見たことのない無邪気で明るい、あどけない笑みだった。
「うん……皆で作るんは、楽しいな。皆が一生懸命、美味しくなるように考えたものばっかり入ってるんやから、美味しいに決まってるな」
 母のそんな言葉に、奈々は力一杯頷いて、また、軽やかな手つきで餃子の皮を手にした。
 皮もタネも具材も、もうあと残り僅かだった。今度は焼き上がることが楽しみだという空気に変わっていた。
 そんな中で、一つの具材の皿だけ、まだまだたくさん余っていた。晶一人だけしか、使っていないからだ。
「晶……なんだってこんなものを入れたんだ。泉くんに言われただろう。入れるのは美味しくなるものに限ると」
「何よ、美味しいじゃない。食べてみたらわかるわよ」
 ここに来て、野保親子の方の空気が険悪になってしまった。それを奈々たちは苦笑いして見ている。それしかできない。
 なにせケンカのネタになっている晶の提示した食材というのが、チョコレートだったからだ。
「泉くんも、なんでこれを採用した? 無理に採用しなくたって、いいだろう」
「いえ、チョコレートもまぁ……悪くはないかもなと思いまして……カレーには使うって聞きますし」
「ほら。泉くんがこう言ってるんだから、いいじゃない」
 竹志のお墨付き(と言えなくもない言葉)を受けて、晶は自信を持ってしまった。当の竹志は、少し困っていた。奈々たちのことを考えるあまり、晶が出した案のことは後回しになっていて考えなしにカゴに放り込んでいただなんて、とても言えなかったのだ。
「焼くときは、他のものと離して焼いてくれないか」
「……わかりました」
 野保の目がいつになく真剣で、竹志は頷くほかなかった。
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