家政夫くんと、はてなのレシピ

真鳥カノ

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第二章 五品目 ”はてな”を包んで

15 家族のお料理

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「じゃあ皆でご飯を作ります!」
 台所で準備を終えて、居間に戻ってきた竹志は高らかに宣言した。その腕には大きなボウルを抱えている。隣には天が真似をしたように胸を張っている。その様子を奈々がなんだか気合いの入った目で見て、野保と晶は諦観の笑みを浮かべ、そして奈々たちの両親はきょとんとしていた。
「皆で作る? 作ってくれるんやなくて? いやちょっとはお手伝いするつもりやったけど……」
「普段は僕が作りますけど、今日のご飯は皆で一緒に作るんです」 
「何で?」
 奈々の母親は竹志だけでなく、野保や晶にも説明を求める視線を送ったが……二人とも、首を横に振るばかりだった、
「まぁ、いいじゃないか。やってみたら楽しいもんだぞ」
「そうそう。それに泉くんがこう言う時って、だいたい何か理由があるのよ。悪いことにはならないから安心して」
 納得がいくのか行かないのか、よくわからない説明のみ述べて、野保と晶は手を洗いに行くため立ち上がった。奈々たちの両親も、しぶしぶそれに従う。
 全員がローテーブルを囲んで座ると、竹志はどんと大きなボウルを置いた。続いて天が小皿を各々の前に置いていく。続いて丸い満月のような薄っぺらいものがたくさん置かれた。餃子の皮だ。
 更に台所と何往復かして、ローテーブルの上を色々なものが載った皿で埋め尽くしていく。
 チーズ、海苔、枝豆、こんにゃく、即席麺を砕いたもの等など……実に様々なものが並んでいた。だがそれらは、どれも全員にとって心当たりがあった。
「泉くん、これって、買い物前に聞かれたアレ?」
 晶の問いに、竹志が全力で頷いた。
 買い物に出かける前に、竹志はこの場にいる全員にアンケートをとっていた。質問事項は「餃子に入れたら美味しいもの」。
 各々2~3個ずつ捻り出してもらい、竹志が採用した物が今並んでいる。
 ちなみにアンケートをとる前に「必ず食べられるものであること。不味くなるものは厳禁」と厳命していたためか、おかしなものは書かれていなかった。
「皆さん、ちゃんとルールを守って書いて下さったので、美味しそうなものばっかり集まりました。じゃあこれで、餃子を作っていきましょう!」
 竹志と天の二人だけが拳を掲げてやる気に満ちている。おずおずと真似をしようとしている奈々たちに向けて、竹志はテキパキと、説明を始めた。
「まずは僕が作りますね。これをお手本にして作ってください」
 竹志は餃子の皮を左手に、ティースプーンを右手に、静かにボウルの前に佇んだ。そしてパタパタパタと何やら手を動かしたかと思うと、その手のひらにはもう小さな餃子がちょこんと載っていたのだった。
「……え?」
「どうです。簡単でしょう! さあ、やってみましょう」
「いや、何やってたのよ一体?」
 晶が怪訝な顔をして尋ねるも、竹志はけろりと言ってのける。
「何って……餃子作りですけど? あ、手の上でやるのが難しかったらお配りした小皿に置いてやってもらってもいいですよ」
 竹志は、自分がやった作業がかなり器用にハイスピードでこなされていたということに、気付いていなかった。「やってみましょう」と言われたところで、何をどうすればいいのかまったく伝わっていないのだ。
 そんな、ただただ困惑するばかりの一同を前に、そろりと小さな手が挙がった。
「わ、私……やってみます」
 奈々だった。
 奈々は50枚ほど重なっている餃子の皮を一枚手に取り、スプーンでそっとタネをすくった。そして皮の上に載せて、竹志に見せた。
「これくらいですか?」
「うん、そうそう。あとはこの皿の中から好きな具材を一個入れる」
「じゃあ……」
 奈々はキューブ状に切ったチーズを手に取り、タネの中にぐっと埋め込んだ。そして皮の端に水を塗り、半分に折って閉める。閉める際には皮の端をきゅっとつまんで羽根を作ることを忘れない。軽く折り重なったような羽根が出来上がると、奈々は大皿に置いてあった、竹志の作った餃子の隣にちょこんと置いた。
 それを見た野保たちから、歓声が上がるのだった。
「ほぅ……上手だなぁ」
「本当、やっぱり奈々ちゃん上手ね」
「そ、そうかな……羽根、ちょっとよれてるし……」
「いいのいいの! ちゃんと閉じてれば! ちょっとくらい失敗しても、美味しく食べれば何だっていいんだよ」
 恥ずかしそうにしていた奈々は、竹志にそう言われた途端、きょとんとしていた。そしてそれは、奈々の両親も同様だった。
 ほんの少し、3人とも考え込んでいると、天が待ちきれないといった様子で身を乗り出した。
「てんちゃん、作りたい!」
 もはや悩む時間はない。他ならぬ天がこう言っているのだから。
 誰もが目を見合わせて、思わずクスリと笑ってしまう。
「うん、そうだね。じゃあ、皆で美味しく作って、美味しく食べよう!」
 竹志のその声を皮切りに、皆が一斉に、手を伸ばしたのだった。
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