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第二章 五品目 ”はてな”を包んで
2 急な決定
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竹志が出勤すると、晶も奈々も出かけた後だった。聞けば、二人でお出かけだとか。竹志はそのことには何も驚かなかったのだが、出かけた理由を聞くと、驚いたのだった。
「今日お迎えですか!? 急だなぁ」
「まったくな……」
野保が呆れたようなため息をつく。
「あの子は……従兄弟の楓さんの娘さんにあたるんだが、昔から行き当たりばったりなところがあってなぁ。また頭の回転が速いから、それで問題が起きても大抵どうにかできてきたもんで、改善の兆しがないんだ……」
眉間を抑えながら困ったように言う野保を見て、竹志はふわりと楓のことを思い浮かべた。会ったことはないが、いつも缶詰やらじゃがいもやら、良いと思ったものを大量に送ってくる。聞けば事前確認はないらしく、とにかく送ってやらねばと思ったら送るらしい。その即断即決ぶりは見習うべき部分もあるのだが……なるほど、親子できちんと遺伝しているらしいと思わざるをえなかった。
「えーと、じゃあ……失礼ですが、野保さんや晶さんが変更を求めても……」
「おそらく聞かないだろうな」
竹志は、苦笑いしか浮かべられなかった。
「奈々ちゃんの予定とか、聞かないんですね……」
「晶もさすがに、ちょっと強引すぎると、不服に思ったんだろうな。なにせ奈々ちゃんに合意をとってないんだからな」
野保から、奈々に届いたメッセージの文面を聞いて、竹志はなんだか胸の内にもやもやした感覚を覚えていた。その原因は、野保が言った通りだ。
「急に言われたって、奈々ちゃんも困るでしょうに」
「そういった発想が欠けている時があるんだな、あの子は。顧客に対してはきちんと対応しているらしいが、プライベートになると急に気が緩むんだ」
「まぁ家族なら、そういうときもありますけど……でも……」
竹志はその先の言葉は、なんとか飲み込んだ。仮にも野保の親類で、奈々と天の両親だ。悪口になる言葉を言うわけにはいない。
憮然として黙っていると、野保がぽんぽんと肩を叩いた。
「仕方ない事情もあるんだろうさ。長く我が家に預けていたことを申し訳なく思ってもいたんだろうしな」
その言葉には、多少頷けた。元々は、奈々たちは祖母である楓の家に行く予定だったと聞いた。楓が入院することになったために、野保の家を頼ったのだ。誰にとっても想定外のことで、誰も悪くはない。だが、いきなり中学生と幼児を二人、ひと月もの間預かってもらうというのは、さすがに責任を感じていたのだろう。
それならば早く引き上げなければと思うのは、常識の範疇か。
「でもなぁ……結局、奈々ちゃんと天ちゃんが振り回されてるような……」
「まあまあ。だからこそ、晶が気分転換に連れ出したんだ。我々は我々で、出来ることをやっておこう」
野保がそう言うと同時に、トコトコと小さな足音が近づいてきた。そして、竹志のエプロンの裾をちょこんと引っ張るのだった。
「てんちゃん、おてつだいする!」
やる気に満ちた天の顔を見て、竹志も、ぐっと気を引き締めた。
釈然としない思いはあるが、もう決まってしまったことだ。時間は限られているし、やらなければいけないことは変わらない。
「うん、よし! じゃあ一緒に頑張ろうか」
「がんばる」
竹志に倣って、天が拳を握りしめる。
「うん。じゃあまずは、洗濯物を干します! 奈々ちゃんが洗濯機を仕掛けておくとこまではやってくれてるから」
「ほします!」
先日窓から落ちたこともすっかり忘れて、天は楽しそうに頷いた。一緒になってかけ声を上げながら、竹志は天と一緒に洗濯機に向かった。
「今日お迎えですか!? 急だなぁ」
「まったくな……」
野保が呆れたようなため息をつく。
「あの子は……従兄弟の楓さんの娘さんにあたるんだが、昔から行き当たりばったりなところがあってなぁ。また頭の回転が速いから、それで問題が起きても大抵どうにかできてきたもんで、改善の兆しがないんだ……」
眉間を抑えながら困ったように言う野保を見て、竹志はふわりと楓のことを思い浮かべた。会ったことはないが、いつも缶詰やらじゃがいもやら、良いと思ったものを大量に送ってくる。聞けば事前確認はないらしく、とにかく送ってやらねばと思ったら送るらしい。その即断即決ぶりは見習うべき部分もあるのだが……なるほど、親子できちんと遺伝しているらしいと思わざるをえなかった。
「えーと、じゃあ……失礼ですが、野保さんや晶さんが変更を求めても……」
「おそらく聞かないだろうな」
竹志は、苦笑いしか浮かべられなかった。
「奈々ちゃんの予定とか、聞かないんですね……」
「晶もさすがに、ちょっと強引すぎると、不服に思ったんだろうな。なにせ奈々ちゃんに合意をとってないんだからな」
野保から、奈々に届いたメッセージの文面を聞いて、竹志はなんだか胸の内にもやもやした感覚を覚えていた。その原因は、野保が言った通りだ。
「急に言われたって、奈々ちゃんも困るでしょうに」
「そういった発想が欠けている時があるんだな、あの子は。顧客に対してはきちんと対応しているらしいが、プライベートになると急に気が緩むんだ」
「まぁ家族なら、そういうときもありますけど……でも……」
竹志はその先の言葉は、なんとか飲み込んだ。仮にも野保の親類で、奈々と天の両親だ。悪口になる言葉を言うわけにはいない。
憮然として黙っていると、野保がぽんぽんと肩を叩いた。
「仕方ない事情もあるんだろうさ。長く我が家に預けていたことを申し訳なく思ってもいたんだろうしな」
その言葉には、多少頷けた。元々は、奈々たちは祖母である楓の家に行く予定だったと聞いた。楓が入院することになったために、野保の家を頼ったのだ。誰にとっても想定外のことで、誰も悪くはない。だが、いきなり中学生と幼児を二人、ひと月もの間預かってもらうというのは、さすがに責任を感じていたのだろう。
それならば早く引き上げなければと思うのは、常識の範疇か。
「でもなぁ……結局、奈々ちゃんと天ちゃんが振り回されてるような……」
「まあまあ。だからこそ、晶が気分転換に連れ出したんだ。我々は我々で、出来ることをやっておこう」
野保がそう言うと同時に、トコトコと小さな足音が近づいてきた。そして、竹志のエプロンの裾をちょこんと引っ張るのだった。
「てんちゃん、おてつだいする!」
やる気に満ちた天の顔を見て、竹志も、ぐっと気を引き締めた。
釈然としない思いはあるが、もう決まってしまったことだ。時間は限られているし、やらなければいけないことは変わらない。
「うん、よし! じゃあ一緒に頑張ろうか」
「がんばる」
竹志に倣って、天が拳を握りしめる。
「うん。じゃあまずは、洗濯物を干します! 奈々ちゃんが洗濯機を仕掛けておくとこまではやってくれてるから」
「ほします!」
先日窓から落ちたこともすっかり忘れて、天は楽しそうに頷いた。一緒になってかけ声を上げながら、竹志は天と一緒に洗濯機に向かった。
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