家政夫くんと、はてなのレシピ

真鳥カノ

文字の大きさ
上 下
72 / 98
第二章 四品目 ころころ”パンダさん”

15 宝物を並べて

しおりを挟む
 コンロの火を点け、油のたっぷり入った鍋をかける。程なくして、油からじんわりと熱気が上ってくる。手をかざすと、肌が焼かれるような感覚に見舞われる。
 竹志はボウルにへばりついている豆腐を菜箸でとって、鍋の油に落としてみた。豆腐は油に落ちると、鍋の底まで着く前にふわりと浮き上がった。細かな泡を伴って、じゅわっと音を立てている。
「よし」
 適温だ。そう判断した竹志は、菜箸と豆腐団子が載った大皿を手に持った。そして、天が作ったキレイなまん丸の団子を箸でとり、そっと鍋の中に鎮めた。団子は油の海の中で静かに沈んで、泡をぷちぷち浮かばせている。
 竹志は同じように、他の豆腐団子も鎮めていった。鍋の中には真っ白と真っ黒が斑模様を成す団子がいくつも揺蕩っている。
 それらがくっついてしまわないように、時折、菜箸で離して、泡の大きさに注意していた。
「みたい」
 鍋の中を後諭旨している竹志に、天がそうお願いした。手も目も離せない竹志に代わり、野保が椅子に乗せて、鍋を見られるようにしてあげていた。
 自分が作った豆腐団子がいくつも鍋の中で揚がっていく様を見た天は「ほわぁ」と感嘆の息を漏らした。
 鍋の底でじゅわっと大きな音を立てて大きな泡を出していた団子たちも、やがてふわりと浮き上がってくる。ぷかぷか浮かびながら小さな泡を出す団子の表面は、真っ白からこんがりきつね色に変わっている。その表面には、やはりところどころ海苔によって黒い模様がついている。
 竹志は鍋に浮かぶそれらを網で掬い上げ、キッチンペーパーを敷いた皿に置いていった。そのまま菜箸で一つ、割ってみた。すると、サクッと言う音と共に湯気が吹き上がる。きつね色の表面はカリッとしていて、その中はふんわりとしていて、豆腐の真っ白を保っていた。そして、ところどころ黒い模様ができている、まるでパンダのように。
「天ちゃんの言ってた『パンダさん』て、これかな?」
「うん、これや!」
 勢いよく頷く天を見て、竹志は野保と視線を交わした。お互いに「良かった」と思っているのがわかる。
「……ねね、うれしい?」
 天が、ほんの少し不安そうにそう尋ねた。窺うような目で竹志を見つめている。
 そんな不安を吹き飛ばすように、竹志は大きく頷いた。
「もちろん。だから奈々ちゃんが喜んでたくさん食べられるように、残りも全部揚げちゃおう」
「うん!」
 大きな皿には、天が作った豆腐の団子がまだまだたくさん載っている。竹志はそれら一つ一つを、そっと掴んで油に沈めた。
 壊さないように、丁寧に、宝物に触れるように。そっと鍋底に沈んでいった真っ白な豆腐は、やがて黄金色の宝石のようになって天の前に浮かび上がってくる。
 いつしか白い団子の皿は空になり、黄金色の団子の皿が埋まっていった。そこに並ぶのは黄金か、琥珀か。いや、そう呼ぶには黒い模様が目立つ。
 そこにいるのはやはり『パンダさん』だった。
「うん。この方がより『ころころパンダさん』と呼べるんじゃないか?」
 千鶴子の作っていたものはラグビーボールに近い形だった。今出来上がったものは、まん丸のボール型であり、まさしく”ころころ”だった。城と黒の混ざり具合もパンダのそれとよく似ている。
 竹志は野保と天と目を見交わして、大きく宣言した。
「できました! これが天ちゃんの言ってた『ころころパンダさん』です!」
 誰ともなく、互いに拍手を交わした。
 そうしていると、玄関の方で音が聞こえた。次いで聞こえたのは……
「ただいまー」
 晶の声だ。きっと、その後ろには奈々もいるに違いない。
「よし、じゃあご飯にしましょうか」
 竹志は、意気揚々と出迎えに行くのだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

2137人目の勇者として召還されたら…… 

弥湖 夕來
ファンタジー
突然異世界に召喚され、「ドラゴンを捕らえる権利が与えられた」と告げられたオレは、実は現実世界がどんなに居心地が良かったか知り……

私と継母の極めて平凡な日常

当麻月菜
ライト文芸
ある日突然、父が再婚した。そして再婚後、たった三ヶ月で失踪した。 残されたのは私、橋坂由依(高校二年生)と、継母の琴子さん(32歳のキャリアウーマン)の二人。 「ああ、この人も出て行くんだろうな。私にどれだけ自分が不幸かをぶちまけて」 そう思って覚悟もしたけれど、彼女は出て行かなかった。 そうして始まった継母と私の二人だけの日々は、とても淡々としていながら酷く穏やかで、極めて平凡なものでした。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

小さなパン屋の恋物語

あさの紅茶
ライト文芸
住宅地にひっそりと佇む小さなパン屋さん。 毎日美味しいパンを心を込めて焼いている。 一人でお店を切り盛りしてがむしゃらに働いている、そんな毎日に何の疑問も感じていなかった。 いつもの日常。 いつものルーチンワーク。 ◆小さなパン屋minamiのオーナー◆ 南部琴葉(ナンブコトハ) 25 早瀬設計事務所の御曹司にして若き副社長。 自分の仕事に誇りを持ち、建築士としてもバリバリ働く。 この先もずっと仕事人間なんだろう。 別にそれで構わない。 そんな風に思っていた。 ◆早瀬設計事務所 副社長◆ 早瀬雄大(ハヤセユウダイ) 27 二人の出会いはたったひとつのパンだった。 ********** 作中に出てきます三浦杏奈のスピンオフ【そんな恋もありかなって。】もどうぞよろしくお願い致します。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

会社をクビになった私。郷土料理屋に就職してみたら、イケメン店主とバイトすることになりました。しかもその彼はーー

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ライト文芸
主人公の佐田結衣は、おっちょこちょいな元OL。とある事情で就活をしていたが、大失敗。 どん底の気持ちで上野御徒町を歩いていたとき、なんとなく懐かしい雰囲気をした郷土料理屋を見つける。 もともと、飲食店で働く夢のあった結衣。 お店で起きたひょんな事件から、郷土料理でバイトをすることになってーー。 日本の郷土料理に特化したライトミステリー! イケメン、でもヘンテコな探偵とともに謎解きはいかが? 恋愛要素もたっぷりです。 10万字程度完結。すでに書き上げています。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。