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第二章 四品目 ころころ”パンダさん”
11 ”パンダ”の黒は
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「うーん……”パンダさん”……!」
野保と天と連れだって三人でスーパーにやってきた竹志は、一人そう唸っていた。
「スーパーに来れば何かヒントがあるかもしれないと思ったが……こうも品が多いと、かえってわからなくなるな」
「いつもはここをぶらぶらしながら考えて何とかなってるんですが、今日は何も思いつかないです……」
野保の言葉に返した竹志の声は、なんとも弱々しいものだった。
なにせ『パンダさん』というのが抽象的すぎる。スーパーに来るまでの道中、天は再び『パンダさん』と口にした。今度こそ何か手がかりが……と思ったが、天が指していたのはパトカーのことだった。天にとっては、白と黒の二色だと何でも『パンダさん』らしい。
奈々にとっても同じとは限らないが、特徴が白黒ということはほぼ確実だろう。
問題は、何が『黒』に当たるのか、だ。
白は豆腐で確定らしいので、ひとまず豆腐を多めにカゴに入れた。レシピノートに書いてあったとおり、木綿豆腐だ。
「うーん、黒いものかぁ……」
とりあえず、頭の中で黒い食材を並べてみた。
黒豆、黒ごま、黒米、黒酢、黒砂糖、わかめ、ひじき、レーズン……色々ある。
「まぁなんとなく……レーズンではないだろうなぁ。黒砂糖も、黒酢も違うかなぁ」
「どうしてそう思う?」
「黒砂糖や黒酢を入れたら、たぶん豆腐が黒っぽくなっちゃうので。『パンダさん』と言うからには、白い部分と黒い部分がはっきり分かれてるんだと思うんです」
なるほど、と野保が感心した声を出す。竹志はその声を聞きながら、それぞれの材料を入れてみた時を想像した。
「うーん……黒ごまもなしかな。あと黒米も……たぶん、ひじきも」
「ほぉ。何故?」
「今挙げた三つは、どれも小さいからですよ。パンダの黒い模様と言うより、黒い点がたくさんできて水玉模様に近くなるんじゃないかな」
「なるほどな。では、候補は黒豆、わかめということか」
「そうですね。わかめあたりが一番、相性が良さそうですけど」
「黒豆の可能性はないか?」
野保にそう問われ、竹志は一瞬だけ考えた。そして、隣を歩く天に尋ねてみた。
「天ちゃん、その『パンダさん』て、食べるとどんな形してた?」
すると天もまた、考え込んで、首を傾げたまま答えた。
「わからへん」
「丸い? 四角い? それとも気付かないくらい柔らかいとか?」
「うーん……わからへん」
「形らしい形がないってことかな……じゃあ黒豆じゃないですね。あれは火を通してもはっきり豆の形をしていますから」
「じゃあ、わかめか」
「そうですね。それが一番可能性が高い……かな」
三人は答えが見えてきた気がしていた。豆腐や鮮魚のコーナーを抜けて、乾物の棚へと向かった。
昆布やかつおぶし、ひじきや切り干し大根なども並ぶ中、竹志は一直線に乾燥わかめの袋を目指した。
手に取った袋の中でひしめくわかめを見て、野保は首を傾げた。
「随分小さいんだな。ひじきと同じような大きさじゃないか?」
側に置いてあったひじきの袋と見比べて、野保は言う。
「水で戻すと、3~4倍に膨れるんですよ。いつもお味噌汁に入れてるわかめも、元はこんな大きさです」
「それは……知らなかったな」
野保は少し恐縮しながらひじきの袋を棚に戻し、わかめの方に視線を移した。
「でも確かに、わかめは相性バッチリだと思います。栄養価も高いし、豆腐との食べ合わせもいいし、ふんわりやわらかい豆腐の食感の中にわかめのちょっとこりっとした食感で噛み応えがあると……」
「……これ、ねねきらい」
「……え?」
さあ、これで作れるぞと意気込んでいたところに向けて飛んできた天の言葉に、思わず手にしたわかめの袋を取り落としそうになった竹志なのだった。
野保と天と連れだって三人でスーパーにやってきた竹志は、一人そう唸っていた。
「スーパーに来れば何かヒントがあるかもしれないと思ったが……こうも品が多いと、かえってわからなくなるな」
「いつもはここをぶらぶらしながら考えて何とかなってるんですが、今日は何も思いつかないです……」
野保の言葉に返した竹志の声は、なんとも弱々しいものだった。
なにせ『パンダさん』というのが抽象的すぎる。スーパーに来るまでの道中、天は再び『パンダさん』と口にした。今度こそ何か手がかりが……と思ったが、天が指していたのはパトカーのことだった。天にとっては、白と黒の二色だと何でも『パンダさん』らしい。
奈々にとっても同じとは限らないが、特徴が白黒ということはほぼ確実だろう。
問題は、何が『黒』に当たるのか、だ。
白は豆腐で確定らしいので、ひとまず豆腐を多めにカゴに入れた。レシピノートに書いてあったとおり、木綿豆腐だ。
「うーん、黒いものかぁ……」
とりあえず、頭の中で黒い食材を並べてみた。
黒豆、黒ごま、黒米、黒酢、黒砂糖、わかめ、ひじき、レーズン……色々ある。
「まぁなんとなく……レーズンではないだろうなぁ。黒砂糖も、黒酢も違うかなぁ」
「どうしてそう思う?」
「黒砂糖や黒酢を入れたら、たぶん豆腐が黒っぽくなっちゃうので。『パンダさん』と言うからには、白い部分と黒い部分がはっきり分かれてるんだと思うんです」
なるほど、と野保が感心した声を出す。竹志はその声を聞きながら、それぞれの材料を入れてみた時を想像した。
「うーん……黒ごまもなしかな。あと黒米も……たぶん、ひじきも」
「ほぉ。何故?」
「今挙げた三つは、どれも小さいからですよ。パンダの黒い模様と言うより、黒い点がたくさんできて水玉模様に近くなるんじゃないかな」
「なるほどな。では、候補は黒豆、わかめということか」
「そうですね。わかめあたりが一番、相性が良さそうですけど」
「黒豆の可能性はないか?」
野保にそう問われ、竹志は一瞬だけ考えた。そして、隣を歩く天に尋ねてみた。
「天ちゃん、その『パンダさん』て、食べるとどんな形してた?」
すると天もまた、考え込んで、首を傾げたまま答えた。
「わからへん」
「丸い? 四角い? それとも気付かないくらい柔らかいとか?」
「うーん……わからへん」
「形らしい形がないってことかな……じゃあ黒豆じゃないですね。あれは火を通してもはっきり豆の形をしていますから」
「じゃあ、わかめか」
「そうですね。それが一番可能性が高い……かな」
三人は答えが見えてきた気がしていた。豆腐や鮮魚のコーナーを抜けて、乾物の棚へと向かった。
昆布やかつおぶし、ひじきや切り干し大根なども並ぶ中、竹志は一直線に乾燥わかめの袋を目指した。
手に取った袋の中でひしめくわかめを見て、野保は首を傾げた。
「随分小さいんだな。ひじきと同じような大きさじゃないか?」
側に置いてあったひじきの袋と見比べて、野保は言う。
「水で戻すと、3~4倍に膨れるんですよ。いつもお味噌汁に入れてるわかめも、元はこんな大きさです」
「それは……知らなかったな」
野保は少し恐縮しながらひじきの袋を棚に戻し、わかめの方に視線を移した。
「でも確かに、わかめは相性バッチリだと思います。栄養価も高いし、豆腐との食べ合わせもいいし、ふんわりやわらかい豆腐の食感の中にわかめのちょっとこりっとした食感で噛み応えがあると……」
「……これ、ねねきらい」
「……え?」
さあ、これで作れるぞと意気込んでいたところに向けて飛んできた天の言葉に、思わず手にしたわかめの袋を取り落としそうになった竹志なのだった。
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